(※写真はイメージです/PIXTA)
同居解消と「1円にもならない二世帯住宅」の現実
不満の爆発をきっかけに「もう一緒には住めない」と同居解消が決まり、長男家族は近くの賃貸マンションへと出ていきました。
残されたのは、無駄に広い二世帯住宅と、跳ね上がった固定資産税や維持費。夫婦の年金月23万円だけでは、日々の食費や医療費を払うと、住居関連の支払いで完全に家計が赤字に転落してしまいます。
背に腹は代えられず、ミツルさん夫婦はこの二世帯住宅を売却し、身の丈に合った小さな賃貸アパートへ移る決意をしました。
ところが不動産会社を訪れると、さらに追い打ちをかけるような厳しい現実を突きつけられます。玄関・風呂・台所が共有の一部共有型二世帯住宅は、他人が住むには不便すぎて買い手がまったくつきません。結局、建物としての価値はゼロと判定され、購入者が更地に解体するための費用などを差し引いた結果、土地代と相殺されて手元に残る売却益は「実質0円」という査定結果が出たのです。
2,500万円の投資も長年所有していた土地もすべて失い、手元には1円も残りませんでした。
同居解消から最初の2年間は互いに気まずさが残り、連絡も途絶えがちでした。しかし、完全にお互いの家計と住まいを分けたことで、ようやく冷え切っていた親子関係に変化が訪れます。連絡が途絶えがちだった期間を経て少しずつかどが取れ、穏やかな関係を取り戻すまでに3年の年月がかかりました。
「あのころは、私たちが近くにいすぎたんです。いまではたまに孫が遊びに来て、一緒にごはんを食べて帰るくらい。家は1円にもならなかったけれど、同居をやめて別々に暮らしたからこそ、お互いに一番心地よい『ちょうどいい距離』が手に入りました」と、ミツルさん夫妻は静かに振り返ります。
二世帯住宅の売却に潜むリスク
ミツルさん夫妻の事例は、「老後の安心」と「子育て支援」というよかれと思った動機からスタートしたものの、プライバシーの摩擦と不動産の資産性の低さによって、関係の破綻と大きな経済的損害を招いてしまったケースです。
こうした親子間の住まいをめぐる不一致は、統計データにもはっきりと表れています。国土交通省『令和5年住生活総合調査』によると、高齢者世帯が望む住まい方として、同居よりも「近居(近くに住む)」を志向する割合が高まっていることが示されています。同居によってプライバシーや生活リズムを損なうリスクを避けるため、現代の親子間では「スープの冷めない距離」で独立して暮らすスタイルが支持されているのです。
改めて、二世帯住宅を検討するにあたり押さえておくべきリスクを整理します。
1.一部共有型がもたらす精神的ストレス
コストを抑えるために玄関や風呂、キッチンを共有する「一部共有型」を選ぶケースは多いですが、生活リズムが異なる世帯が共有部分を持つことは、想像以上の精神的ストレスを生みます。プライバシーを保つには、相応の建築費用をかけてでも「完全分離型」を選択するか、そもそも別居を選択する方が安全です。
2.中古市場における資産価値の低さ
不動産市場において、間取りが特殊な二世帯住宅(特に一部共有型)は買い手が極めてつきにくい物件です。中古市場では評価額が著しく下がり、ミツルさん夫婦のように売却しても解体費用等と相殺されて「1円にもならない」リスクがあります。将来売却して老後資金や施設入居費に充てるという計画は成り立ちにくいのが実態です。
親世代の「同居=安心」という固定観念を手放し、お互いのプライバシーが守れる適度な物理的距離を保つことこそが、結果として家族の絆を守る鍵となりうるでしょう。
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