将来の安心や親孝行を見据えて選択される「二世帯住宅」。しかし、家族の幸せを願って建てたはずの理想の住まいが、予期せぬ事態を引き起こすことも……。事例を見ていきましょう。※事例の人物名はすべて仮名です。
「1円にもならなかったけど、二世帯住宅、手放しました」年金23万円・67歳夫婦、2,500万円かけた長男家族との同居を解消。3年後に手に入れた〈ちょうどいい距離〉 (※写真はイメージです/PIXTA)

「孫の面倒も見るから」と押し切った二世帯住宅の建築

郊外に一戸建てを所有していたミツルさん(67歳)とチトセさん(67歳)夫婦。夫婦の年金収入は合計で月約23万円です。これからの体力の衰えを考えると、夫婦二人きりの老後には心細さがありました。

 

そこでミツルさん夫婦は、結婚5年目で息子が生まれたばかりの長男夫婦へ、思い切った提案を持ちかけます。

 

「孫の面倒も見てあげるし、お前たちのマイホーム購入費用も抑えられる。将来的に、この土地はお前のものになるのだから、二世帯で住まないか?」

 

長男夫婦は共働きです。ミツルさん夫婦としては、自分たちが孫の世話を担うことで長男夫婦の負担が減り、互いにとって大きなメリットがあると考えていました。しかし、長男の嫁であるミナさん(35歳)は浮かない表情を浮かべます。

 

「世代も生活リズムも違いますし、一緒に住むのは難しいと思います」と、控えめながらもはっきりと難色を示しました。

 

それでもミツルさん夫婦は「家族同士なのだから大丈夫だ」と説得を続けます。結局は、長男夫婦が折れるかたちで二世帯住宅の建設が決まりました。

 

ところが、次に資金面の壁が立ちはだかります。玄関や風呂、台所を完全にわける「完全分離型」が理想でした。ですが、大幅に予算オーバーです。そのためミツルさん夫婦は、既存の自宅をミツルさんの退職金と貯蓄を使い、2,500万円かけて一部改修し、設備を共用する「一部共有型」の二世帯住宅案を出しました。

 

さらに配管の構造上、電気やガス、水道メーターをわけることはできず、費用の負担割合をどうするかが議論に。長男から「水道代や一部の光熱費は折半にしてほしい」と打診されたものの、ミツルさん夫婦は難色を示します。するとミナさんはいよいよ表情を曇らせ、意を決したように告げました。

 

「本当なら完全別居が希望です。二世帯で一緒に住むということだけでも、こちらはかなり譲歩しているつもりなのですが……」

 

話し合いの末、ミツルさん夫婦が折れる形で水道光熱費は折半、長男夫婦が折れる形で「一部共有型」を採用し、改修工事は完了しました。

積み重なる日常の摩擦

同居が始まった当初、生まれたばかりの孫をチトセさんが可愛がり、一見すると順調な生活が始まったかのように思えました。しかし暮らしが落ち着くにつれて、二世帯のあいだに摩擦を生んでいきます。

 

最初に気になりはじめたのは、お風呂の時間の重なりでした。お互いにお風呂好きで長湯をする習慣があったため、夜になるとどちらが先に入るか見えない牽制が走り、順番待ちの渋滞が発生して互いに気を遣うはめになります。

 

ミナさん宛の宅配便が届いた際も、チトセさんは悪気なく「なにを買ったの?」「見せて」「これ、いくらなの?」と声をかけてしまいました。ミナさんの友人が家に遊びに来た際には、会話を聞いて「あの人はすごいわね」「大したことないわね」と評価してしまい、嫌がられます。

 

費用面においても、長男世帯の洗濯物が多いため、「うちのほうが水を使っていないのに」とミツルさん夫婦側にモヤモヤが募っていきました。

 

また、ミツルさんが自分の部屋のテレビの調子が悪くなった際、長男世帯の居間に入り込んでテレビを借りるなどして、口論に発展したこともありました。

 

さらに同居から3年が経ち、孫が幼稚園に入ったころ、玄関での出来事が決定的な溝を作ります。

 

孫が泥だらけの靴を脱ぎ散らかしているのを、チトセさんの近所のお茶飲み友達に見られ、「お孫さん、元気ねぇ(でも靴くらい揃えさせたら?)」と嫌味っぽく指摘されてしまったのです。チトセさんが孫のマナーについてミナさんに注意を促すと、険悪な空気が一気に表面化しました。それ以来、チトセさんが玄関でお客さんと立ち話をしている最中にミナさんが出かけようとし、「どこ行くの?」「いつ帰るの?」と声をかけても、ミナさんは黙り込んで不機嫌そうに出ていくように……。

 

決定打となったのは、ある週末のことでした。長男家族が一声の相談もなく丸一日出かけてしまい、その間にチトセさんが家の中でぎっくり腰を起こして動けなくなってしまったのです。

 

帰宅した長男家族に対し、チトセさんは「こういうときのための二世帯なのに、行き先もいわずに出ていくなんて」と小言を漏らしてしまいました。すると、ミナさんが「休日にどこへ行くかまでつべこべ言われる筋合いはありません!」と怒りを爆発させたのです。