地元に学びの場がない地方の若者にとって、都市部への進学は学費だけでなく住居費や生活費まで背負う大きな決断となる。夢を抱いて踏み出した一歩であっても、現実とのギャップから方向転換を選ばざるを得ない局面は存在する。では、進学後に進路の変更をすると、どのような事態が待ち受けているのか。現在25歳のAさんの事例を紹介しよう。
「夢を諦めた瞬間、借金だけが残りました」…非正規バイトの25歳女性、専門学校で借りた奨学金190万円と、返済を止めている今 (※写真はイメージです/PIXTA)

返済は「止めている」状態…猶予制度を使いながら模索する日々

卒業後、返済は始まった。Aさんは東京での生活を続けながら、飲食店のアルバイトを掛け持ちして返済していた時期もある。しかし、収入は安定しなかった。

 

「国民年金と携帯代と奨学金で、バイト代がほとんど消えるんです。一人暮らしなので家賃もかかるし、本当はもっと働かないといけない。でも、仕事が安定しなくて、ずっとギリギリでした」

 

2年前、収入の減少をきっかけに返還期限猶予制度を申請した。一定の条件を満たした場合に、一定期間、返還を先送りできる制度であり、Aさんは現在もこの猶予を利用している。

 

「仕事が安定したら再開する予定です。いまは返済を止めてもらっている状態で。ただ、止めているだけで減っているわけじゃないので、そこはわかってはいます」

 

給付型奨学金の存在は知っていた。しかし、成績要件などの条件を満たせず、対象外だったという。

 

「返さなくていい奨学金があるのは知っていたけど、自分には無理でした」

 

現在、Aさんは新しい仕事を探している。飲食の経験が長いので飲食を軸にしつつ、夜遅くならない職場を条件にしている。返済を再開するためには、まず安定した収入が必要だ。

「進路を変えた瞬間、投資は借金に変わる」

Aさんの事例が突きつけるのは、奨学金を「将来への投資」として捉えることの難しさと危うさである。

 

たしかに、奨学金という仕組みがあったからこそ、彼女は上京して業界の実態を身をもって知る機会を得られた。また、専門学校で培った表現力や制作のノウハウは、番組制作の現場そのもの以外にも応用できる可能性があり、学びのすべてが無価値になったわけではない。その意味で、奨学金が進学の機会を開いた価値自体まで否定することはできないだろう。

 

しかし、「学費を借りて専門的な技術を身につけ、その分野で働いて返す」という前提が途中で崩れたとき、学んだ経験がすぐに収入へと結びつかなくなり、結果として重い借入金だけが手元に残るという現実に直面する。

 

もちろん、Aさん自身にも、借りる段階でもう少し返済まで見通して考える余地はあっただろう。月8万円を2年間借りながら総額を正確に把握していなかったことや、卒業後の働き方まで具体的に考えられていなかったことは、本人にとっても反省点といえる。

 

ただ、高校生の段階で将来どの仕事に就くのか、その仕事を長く続けられるのか、どれだけの収入を得られるのかまで見通すのは難しい。特に専門学校は、特定の職業や業界を目指す進路だからこそ、途中で方向転換した際、投資を回収するハードルが一気に上がってしまう。

 

Aさんが業界を諦めたのも、単純に「夢を諦めた」という話ではない。深夜勤務や不規則な働き方が自分には難しいと判断し、現実の働き方を考えたうえでの進路変更だった。

 

それでも、奨学金の返済はその事情を考慮してはくれない。専門学校生も大学生と同じように奨学金を利用し、卒業後には返済を負う。だからこそ、進路変更によって返済が難しくなった場合も含め、実情に合った支援を考える必要があるのではなかろうか。

最も苦しい層に届いていない支援制度

もう一つ見過ごせないのは、支援の届き方だ。近年広まりを見せる企業による奨学金返還支援は、正社員勤務などを条件とするものも多い。Aさんのように非正規で働き、雇用が安定していない段階では、利用できる支援の選択肢が限られている。

 

Aさんが利用している返還期限猶予制度は、こうした状況における重要な救済策だ。しかし、猶予はあくまで返済の先送りに過ぎず、免除を意味するものではない。

 

20代を猶予で過ごし、30代で改めて返済に向き合う――。Aさんにとって、約190万円の奨学金は「いま払えないから消える」ものではなく、生活が安定したときに再び向き合わなければならない負債として残り続けている。

 

進路変更を責めるのではなく、その後の生活を支える仕組みを整えること。非正規雇用でも使える支援を設計すること。奨学金を「借りる瞬間」だけでなく、進路変更や就職後の生活まで見据えた支援が、いま求められている。

 

 

大野 順也

アクティブアンドカンパニー 代表取締役社長

奨学金バンク創設者

 

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