※写真はイメージです/PIXTA
母がいなくなったあとをイメージできない
京子さんの年金は遺族年金含めて15万円ほど。しかし、1円も使うことはないといいます。
2人の生活費を管理する京子さん名義の口座に、直人さんが月20万円を入れます。さらに家の修繕費や固定資産税の納付などを見据えて、もう10万円を入れる――佐伯家の支出は、ほぼすべてを直人さんが負担していました。
「今なら、さらに月20万円弱の余裕があり、別途、賞与もある。経済的に苦しいと思ったことはなかった」
しかし30代後半、父親が亡くなったあと、母親もいなくなった場合の人生を考えるようになりました。そこで、自身も母親に依存していることに気が付いたといいます。
「大学も就職先も、お付き合いする人も、母の希望を優先しました。幼いころからずっと、私は母親の言いなりです。だから母親がいなくなったことをイメージできない。そこで私自身、いかに母親に依存してきたか、思い知ったんです」
さらに40歳を前にして、交際をスタートさせる女性が現れ、早々に“結婚”を意識するようになります。相手は直人さんの家の事情を考慮し、「直人さんの実家で暮らしてもいい」と言ってくれました。しかし、直人さんは「母親との関係を見直すチャンス」と捉え、家を出ていくことを決めたといいます。
「家を出ることを伝えたら、母はわかりやすく取り乱しました。『私を一人にするのか!』と、怒ったり、泣いたり」
後ろ髪引かれる思いではあったものの、直人さんの決断が揺らぐことはありませんでした。この機会を逃せば、一生自立できないことは明確だったからです。最終的に、直人さんは当面の生活費や緊急時の備えとして、まとまった額を口座に入れ、預金通帳を置いて家を出ました。
「経済的に困るようなことがあれば、これからも支援はします。金銭面での不安はそれほどないはず。それでも母は今も怒ったり、泣いたり大変です。分かってもらうまでには、まだ時間がかかると思います」
国立社会保障・人口問題研究所『第16回出生動向基本調査』によれば、未婚男性の65.9%が親と同居しています 。また同研究所『第9回世帯動態調』査では、親が生存している35〜39歳の男性の33.8%が親と同居しているとされ 、30代後半での同居は珍しくない実態が浮かびます。
親子同居は支え合いとなる一方、過度な干渉や依存による共依存を招き、自立を阻む壁になることもあります。直人さんのように、親への依存に気づき関係性を見直す決断は、痛みを伴いますが、互いの人生を尊重し合う健全な親子関係へ歩み出すための一歩といえるでしょう。