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優しい夫がキレた…「母さんは俺の親だぞ」
当初、健司さんは「俺もやる」と言っていました。ところが、仕事が忙しいという理由で、少しずつ久美子さんに任せるようになります。
ある夜、久美子さんは夫に言いました。
「私だけが介護するのは無理だよ」
健司さんは、以前とは違う厳しい口調で返します。
「母さんは俺の親だぞ。少しくらい面倒を見るのが普通だろ」
「だったら、あなたもやってよ」
そう返すと、健司さんは黙り込んだあと、こう言いました。
「母さんを追い出すなら、俺も出ていく」
結婚25年。夫からこのような言葉を聞いたことはありませんでした。さらに、家計にも問題が出てきます。春江さんの年金15万円は、税や社会保険料などを差し引くと、実際に使えるのは月13万円ほど。3人暮らしになったことで食費や光熱費も増えました。医療費や介護用品代もかかります。13万円は、ほぼ介護と生活費のために消えていきました。
在宅介護を続けるなら、自宅の改修も必要です。玄関や廊下への手すり設置、トイレの段差解消、浴室の安全対策。見積もりを取ると、介護保険の住宅改修費を使っても、家族の自己負担は相応に発生することが分かりました。住宅ローンは残り約1,000万円。夫婦の手取り月39万円に春江さんの年金が加わっても、老後資金まで考えれば、決して余裕のある家計ではありません。
家計簿を見ながら、久美子さんは漏らしました。
「このままじゃ、私たちの老後まで危ういわ……」
一方、健司さんは納得しません。
「母さんだって、好きで迷惑をかけているわけじゃないだろ」
夫婦の口論は増えていきました。ケアマネジャーからは、訪問介護の追加やショートステイの利用も提案されました。しかし、久美子さんには別の不安がありました。
「サービスを増やしたら、その分、お金もかかりますよね」
そこでケアマネジャーは、地域包括支援センターも交え、今後の介護と家計について一度整理することを提案しました。春江さんを施設に入れるか、在宅介護を続けるか。選択肢は二択ではありません。訪問介護やデイサービスをどう組み合わせるか。ショートステイを利用するか。住宅改修をどう進めるか。春江さん自身の年金や預貯金を介護費用にどう充てるか。一つずつ冷静に考える必要があります。そして、健司さんにも役割を分担してもらわなければなりません。
久美子さんは夫に伝えました。
「お義母さんを追い出したいんじゃない。私が壊れる前に、やり方を変えたいの」
その後、健司さんも週末の介護を担当するようになりました。春江さんとの同居は続いています。ただ、久美子さんの意識は変わりました。
「介護は、気持ちだけでは続けられないんですね。お金と人手と、家族の覚悟が必要でした」
厚生労働省『2025年 国民生活基礎調査』によると、同居して主な介護者となっている50代女性のうち、69.3%が「悩みやストレスがある」と回答しています。その具体的な原因(複数回答)は、「家族の病気や介護」(53.0%)に続き、「自分の仕事」(23.3%)、「収入・家計・借金等」(22.7%)、「家族との人間関係」(19.7%)が上位を占めています。
さらに、同年代の女性介護者の51.7%が平均睡眠時間6時間未満と回答しており、心身ともに過酷な実態が浮き彫りとなっています。介護を家族だけで抱え込まず、外部の相談機関やデイサービス、ショートステイなどのプロの手を早期に頼ることが、家族崩壊を防ぐために不可欠です。