年金暮らしで将来の資金や住まいに不安を募らせている高齢者が増えるなか、さまざまな解決策が提示されています。なかにはトラブルに発展しやすく、たびたび注意喚起されている方法も。ある親子の事例から、後悔しない老後の資金と住まいのあり方を考えます。
「家は売ったわ」〈年金月12万円・75歳母〉、半年ぶりに帰省した48歳息子への「仰天告白」の真相 ※写真はイメージです/PIXTA

「修繕費」と「これからの生活費」をどうするか?

売却価格は1,480万円。その後の家賃は月6万3,000円でした。美智子さんは売却代金から、修繕費360万円を支払いました。さらに税金や諸費用を差し引いたうえで、約900万円が残りました。

 

「家賃で年間80万円ほど取り崩していくと、残った900万円で11年はもつ計算です。私はそのとき86歳。貯蓄がいつ尽きてしまうか――そんな不安を小さくできる方法だと考えたんです」

 

一方で、健一さんは「なんで俺に言わなかったんだよ」と、少々怒り気味。「言ったら、お金を出すというでしょう」と美智子さんが言うと、「当たり前だろ」と健一さん。

 

「やっぱりそうかと思いました。親思いの息子なので、だからこそ、言えませんでした」

 

厚生労働省『2025年 国民生活基礎調査』によると、高齢者世帯の平均所得は336.1万円で、その61.3%(205.9万円)を公的年金・恩給が占めています。また、平均貯蓄額は1,647.6万円。

 

同調査では、高齢者世帯のうち「単独世帯(一人暮らし)」が53.2%と半数を超え、そのうち女性が約3分の2(高齢者世帯全体の33.2%)を占めており、美智子さんのような単身女性高齢者の多さが浮き彫りとなっています。さらに、高齢者世帯の52.1%が「生活が苦しい」と感じており、厳しい家計状況が数字からも裏付けられます。

 

こうした資金難や将来への不安を背景に、自宅を現金化しつつ住み続けられるリースバックを頼る高齢者が増えていますが、急な契約によるリスクもはらんでいます。

 

国民生活センターはリースバックについてたびたび注意喚起しています。売却後に家賃が値上げされたり、定期借家契約の終了後に退去を求められたりする事例が紹介されています。また、売却価格が相場より安い、家賃が高いといった問題もあります。つまり、「家を売って、そのまま住める」という説明だけで決めると危険だということ。


売却価格は適正なのか。家賃を年金から払い続けられるのか。普通借家なのか、定期借家なのか。更新や再契約はどうなるのか。将来、退去を求められた場合の住まいはあるのか――こうした点を契約前に確認する必要があります。

 

このようなことは、健一さんの耳にも入っていました。だからこそ、母・美智子さんだけで決めてしまったことに、不安と憤りを感じたのです。

 

一方で、美智子さんは美智子さんで、契約前に、通常売却した場合の価格も確認しました。不動産会社にも複数相談しました。そして、「いくらで売るのか」だけでなく、「毎月いくら家賃を払うのか」「何年住み続けられるのか」「契約終了後はどうなるのか」を確認しました。買い戻しについては、最初から予定していません。

 

「ここを相続することは考えていませんでした。残すのも息子の負担だと思って……色々考えて、決めたんです」

 

親子、それぞれの思いが交差する、実家の売却劇。以前と違うのは、その家の所有者が母ではないこと。そして、毎月6万3,000円の家賃を支払っていることです。

 

リースバックは、仕組みと契約条件を理解したうえで、家計に無理がないかを確認して利用することが重要です。国土交通省も、リースバックだけでなく、通常売却や融資など複数の方法を比較し、自分のライフプランに合う手段を選ぶよう促しています。