(※写真はイメージです/PIXTA)
熱中症で倒れた夜…なにもない部屋で突きつけられた現実
月収25万円の派遣収入で質素に暮らし、手元には手つかずの保険金7,000万円とミニマリスト生活による節約で貯まった1,000万円がある。家族も友達も恋人ももういないけれど、誰にも邪魔されない「至高のミニマルライフ」を完成させたミサトさん。しかし、その生活は43歳の夏、突然終わりを告げました。
アパートにはエアコンが設置されているものの、「人間は体温調整できるように生きている。職場に行くたびに冷房で頭が痛くなるから」と冷房を付けずにいたミサトさん。扇風機も買わなかったこともあり、酷暑の夏場の夜中、熱中症で倒れてしまったのです。
体が鉛のように重く、起き上がることすらできません。猛烈な喉の渇きを覚え台所へ這っていったものの、部屋にはスポーツドリンクの買い置きすらありません。汗を拭くタオルも数枚しかなく、暑さにうなされながらミサトさんは震える手でなんとか119番通報をしました。
「ミニマリスト生活、後悔しています…」
救急搬送された病院のベッドで点滴を受けながら、ミサトさんはぼんやりとスマホの画面を見つめていました。
手元には7,000万円の資金があります。スポーツドリンクや冷却シートが必要なら、ウーバーイーツやネットスーパーで頼めばいい。扇風機でも最新の家電でも、お金を出せばいくらでも、あっという間に手に入ります。モノを持っていなくても、現代社会において「物理的な不足」は実のところなんとでもなることでした。
しかし、ミサトさんを打ちのめしたのは、看護師から「緊急連絡先のご家族やご友人はいますか? 着替えなどを持ってきていただける方は……」と尋ねられた瞬間でした。
「いません」
そう答えたとき、虚しさが押し寄せてきました。体調が深刻に悪くて心細いとき、お金を払っても「本気で心配して飛んで来てくれる人」は買えません。背中をさすってくれる人も、大丈夫かと声をかけてくれる人も、いまの自分にはたった一人もいないのです。
煩わしいからと人間関係まで切り捨てて得た生活の代償は、自分がいざというときに誰からも手を差し伸べられない孤独でした。
退院後、ミサトさんは過度なミニマリズムを辞める決意をしました。部屋には防災用の備蓄や常備薬を置き、適度にエアコンも使うようにしました。連絡先がわかる友人に謝罪の連絡を入れることから始め、止まっていた人間関係をもう一度築き直そうとしています。しかし、送ったメッセージにはいまだ既読がつきません。
過度なミニマリスト生活の代償
モノを減らすこと自体は悪ではありませんが、目的と手段が入れ替わってしまうと、人生の選択肢を狭める結果になりかねません。
現代においてはお金さえあれば、大抵のモノはシェアリングサービスやデリバリーですぐに代替可能です。しかし、どれほど手元に潤沢な資産があっても、自分が深刻な病気やトラブルに見舞われ、心が弱り切ったときに寄り添ってくれる「他者との繋がり」だけは、即座にお金で買うことができないもの。人間関係の維持には多少の時間や気遣いというコストがかかりますが、それは人生最大のセーフティネットになります。
本当の意味で豊かな暮らしとは、単にモノの数をゼロに近づけることではないのではないでしょうか。潤沢な資金は自分の心身を守り、快適な環境を整えるために正しく使うこと。そして、煩わしさも含めて他者との繋がりを大切に維持すること。極端な思想に縛られず、モノとお金、そして人との関係性をバランスよく循環させることが、いざというときに自分を救ってくれるのです。
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