国土交通省の『令和5年住生活総合調査』によると、高齢者世帯が住まいや居住環境において重視する項目として「高齢者への配慮」や「日常の買い物などの利便」が挙げられています。年齢を重ねるにつれ、長年住み慣れた自宅であっても、階段の上り下りや買い物の負担、家屋の維持管理が重荷になっていく現実は少なくありません。そうしたなか、選択肢として挙がるのが老人ホームへの住み替えです。しかし、入居後の施設で、思わぬ悲劇が待ち受けていることも。事例を通して、高齢期の住み替えに潜む見えづらいリスクを探ります。※事例の人物名はすべて仮名です。
「子どもには頼りたくないから…」自ら老人ホームへ入った74歳母。半年ぶり、面会日に再会した47歳娘が〈言葉を詰まらせた〉ワケ (※写真はイメージです/PIXTA)

半年後に発覚…思っていたのと違った施設

入居から半年後。仕事の都合をつけてようやく面会に訪れたナナミさんは、面会室に入ってきた母の姿を見た瞬間、言葉を詰まらせました。半年前のハキハキとした面影は消え、すっかり痩せこけておどおどと周囲を気にしていたからです。

 

心配したナナミさんがそっと手を握り、「お母さん、一体どうしたの?」と尋ねると、母は施設での生活をぼそぼそと打ち明けました。

 

ヨシコさんが入居した施設は、家族への電話や手紙を出す自由は制限され、部屋のテレビ、コインランドリーの使用、衣類をしまうキャビネットに至るまで、すべて細かく「追加料金」が発生する課金制の仕組みがあるそうです。自由に飲めるお茶や水は置かれておらず、喉が渇けば館内の清涼飲料水の自動販売機で買うしかありません。お金のことを気にしてしまった母は、水すら最低限の補給で我慢してしまっていたとのこと。

 

さらに、シャワーを浴びる時間には厳格な時間制限が設けられ、食堂でも座席が指定されているため、せっかく友達になった入居者と一緒に座って食事をすることすらできないといいます。

 

資金的な余裕は十分にあるにもかかわらず、「子どもに迷惑をかけたくない」となにもいえずに半年間、不自由に耐えていた母。施設の入居が母にとってよりよい老後とならなかった事実に、ナナミさんは「もっと早くに様子を見にきていれば」と後悔するほかありませんでした。

高齢者施設とのミスマッチ

なぜ、親子で慎重に確認したはずなのに見抜くことができなかったのでしょうか。ヨシコさんが入居した施設では、備品のレンタル料やコインランドリーの利用料といった追加費用は、契約時の膨大な「重要事項説明書」の末尾にある別紙に小さく記載されているだけで、営業担当者からの口頭説明では触れられませんでした。

 

さらに不自由な制限の数々は、契約書類やパンフレットに載るような正式な規定ではなく、入居後に配られる「生活のしおり」や、人手不足を補うために現場都合で設けられた独自の管理ルールでした。そのため、施設の営業担当者が案内する短時間の見学や表面的な書類チェックだけで見抜くことができなかったのです。

 

こうした悲劇を防ぐための注意点を整理します。

 

「月額費用」に含まれる範囲の確認

月額20万円という表示だけで安心せず、なにが標準サービスでなにが有料オプション(テレビ・洗濯・キャビネット利用料・飲料等)なのかを契約前に細かくチェックしましょう。生活に必要な最低限の費用がすべて課金制になっていると、想定以上のスピードで資金を取り崩すことになります。

 

管理規約のチェックの確認

見学時のスタッフの笑顔や建物の綺麗さだけで判断してはいけません。「外出や連絡の自由度」「生活のルール(シャワー時間・食堂の席・飲食物の持ち込みなど)」について、重要事項説明書や管理規約の文章をしっかり確認する必要があります。

 

一時金の償却期間を活用した「住み替え」の選択肢

ヨシコさんのように4,000万円以上の潤沢な手元資金があるならば、我慢し続ける必要はありません。入居一時金(300万円)には初期償却期間やクーリングオフ制度が設けられていることが多いため、合わないと感じたら早めに退去手続きを進め、別の施設へ「住み替える」決断をすることが、本当の意味での安心につながるのではないでしょうか。

 

高齢親の施設入居にあたっては、しっかりとした資金計画と知識を持ってトラブルから親を守り、万が一の際には次の一手を提示できるような柔軟性を持って対応することをお勧めします。

 

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