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老人ホーム…介護不足と配置人員の落とし穴
介護現場の人手不足は深刻です。公益財団法人介護労働安定センター『介護労働実態調査』によると、事業所全体の65.2%が「大いに不足」「不足」「やや不足」のいずれかを回答しています。介護職員に限ると、その割合は69.1%に達しています。しかし、智子さんが施設長に抗議した際、返答は冷ややかなものでした。
「基準を満たす人員配置はクリアしているんですよ。夜間は配置基準が異なり、緊急度の高い方の対応が優先されます」
施設選びの際、人員配置について知っておくべきポイントは3点あります。1つ目は、介護付き有料老人ホームで掲げられる「3:1」の配置基準です。要介護1以上の入居者3人に対し、介護・看護職員は1名以上というもので、入居者30名の介護付き有料老人ホームであれば、10人の職員がいる計算になります。しかし、この10名という数字は、常勤職員の月の所定労働時間を基準にした換算方法である「常勤換算」によるものです。常勤換算10名の職員が2交代制のシフトを組んでいる場合、人員が少なくなる夜勤帯では5人に満たない人数になることが予想されます。
節子さんが入居していた施設では、人員配置の基準こそクリアしていたものの、スタッフの相次ぐ退職により、特に夜間は極端に手薄な状態に陥っていたのです。
介護施設を選ぶ際は、表面的な費用や設備だけでなく、離職率や夜間の介護体制、常勤スタッフの割合などを事前に書面で確認することが不可欠です。見学時には夕方以降の現場の動線やスタッフの動きを観察することも、有効な対策となります。
施設長と話し、人手不足の解消は簡単ではないと感じ取った智子さんは、転居を検討し始めました。しかし、初期償却により一時金はすでに150万円引き落とされています。何より、不満を漏らしていた節子さん自身が、転居に対して消極的な姿勢を見せたのです。
「苦情を言って改善されるならって思っていたけど……いざ、転居となると、ちょっとしんどいのよ」
内閣府の『高齢社会に関する意識調査(高齢期の住み替えについて)』によると、住み替えの意向がありながら実現できていない理由(複数回答)として、75歳以上では「健康・体力面で不安を感じるから」が18.0%、「住み替え先に馴染めるか不安があるから」が15.6%に上ります。また、住み替えの意向がない理由としても「面倒だから」が19.6%を占めています。
高齢期における転居は、金銭面だけでなく、身体的な衰えや新しい環境への不安、心理的・体力的負担が非常に大きく、当事者にとって決して容易ではありません。だからこそ、本人の判断力や気力、体力があるうちに、将来を見据えて家族で段階的な準備や計画的な選択を行うことが不可欠なのです。