(※画像はイメージです/PIXTA)
母親流のもてなし
Aさん一家の滞在中、母親の朝は5時に始まりました。孫が起きる前に朝食の下ごしらえを済ませ、洗濯機を3回まわし、日差しが強くなる前に洗濯物を干します。妻Bさんも朝早くに起きて、手伝おうとしますが、母親は断固拒否。「嫁にはやらせない」の一点張りです。
皆が朝食を終えるころには、猛暑のなか、大人4人と幼児2人分の食材を求めてスーパーへ歩いて通いました。普段は夫婦2人分、カゴ半分で済む買い物が、両手いっぱいのレジ袋に変わります。袋が手に食い込み、痛いのです。
帰宅しても休むことなく昼食の支度が始まり、片付けが終われば夕食の仕込みが待っていました。孫が喉に詰まらせないよう野菜は細かく刻み、アレルギーはないかと気を配り、息子にはビールとつまみを用意します。父親が、母親に「がんばるな、あいつらにやらせろ」と声をかけます。しかし母親は、帰省してきた子ども家族にやらせるのは、親としての恥だと考えているようでした。
夜になれば、重い客用布団を4組引きずり出し、一人で敷いて回りました。持病の腰の痛みを堪えながらシーツを整え、翌朝にはそれを畳んで押し入れに戻そうとしていましたが、そこは妻Bさんが黙って勝手に手伝いました。Aさんはいいます。
「母さんのやり方があるんだから、無理に手伝わなくていいよ。Bもゆっくりしなよ」
それを聞いた妻Bさんは、さすがにカチンときました。
「だったら、あなたがやってよ! 子どもみたいに無神経にくつろいで、本当に40歳の大人なの? その幼稚な振る舞いに私もううんざり! 先に東京に帰っていい? もう嫌だ!」
ものすごい剣幕に驚く夫Aさん。「母さんからなにか嫌なこといわれたの?」と妻に聞きます。
「違う! あなたのその幼稚な態度にうんざりしてるのよ!」
夕食時に起きた“事件”
そして、その日の夕食時、事件は起こりました。
母親は「せっかく帰ってきたのだから」と、鶏の唐揚げと煮物を仕込みました。Aさんが子どものころから好きだった料理なので、孫たちにも喜んでもらえると思ったのです。鶏肉に下味をつけて寝かせ、油の温度を見ながら二度揚げし、彩りに夏野菜の素揚げも添えます。テーブルに並んだ料理は、どれも手間のかかったものばかりでした。
しかしAさんは、唐揚げを一口かじるとこう言い放ちました。
「あー母さん、Bが最近オーガニックにハマっててさ。こういう濃い味付けとか揚げ物、子どもに食べさせないようにしてるんだよね」
その瞬間、食卓の空気が凍りつきました。隣で妻Bさんは驚いてしまいます。「そんなことありません! おいしくいただいてますから!」と少し大きな声で取り繕いますが、母親の顔からはすっと血の気が引いていました。
「……じゃあ、食べなくていいわよ」
母親は料理をテーブルから下げはじめました。向かいで黙って聞いていた父親が、孫2人に違う部屋でYouTubeを見なさいと促しました。孫が違う部屋に行くのを確認すると、息子を指さし怒鳴ります。
「おまえ、いますぐ荷物をまとめて東京に帰れ!」
Aさんとしては予想外の両親の反応に、つい言い返します。
「なんだよ急に! 孫を会わせに来てやったんだろ!!」
「誰が孫に会わせてくださいとお願いしたんだ、おまえは何様なんだ! 孫を見せたら母親を召使いにしても当然なのか!」と父親は息子にまくしたてます。母親はすでに台所のほうに消えていました。
「お義父さん、ごめんなさい。本当にごめんなさい」と妻Bさんは謝りますが、父親は「Bさんを驚かせて申し訳ない。Bさんを責めてはいない。こんな息子で申し訳ない。気を遣って居心地が悪くなっていただろう。全部このバカ息子が悪いんだ」とAさんを睨みます。
Aさんは怒って、外に飛び出してしまいました。父親に叱られるとすぐに家を飛び出す習性は、中学生のころから変わっていないようです。