(※写真はイメージです/PIXTA)
シルバーウィークに関西に旅行へ
東京都内に暮らすアキコさん(52歳・仮名)は、会社員の夫・タカシさん(55歳・仮名)と2人暮らしです。夫婦ともに働いており、世帯年収は約1,500万円。子どもはすでに独立しています。
アキコさんは大の旅行好きです。若いころから国内外を旅し、現在も一人で海外へ出かけることがあります。ただし、意外にも友人とはほとんど旅行をしません。
「友達が嫌いなわけじゃないんですよ。でも旅行って、朝何時に起きるとか、ご飯は何を食べるとか、今日はどのくらい歩くとか、細かいところでずっと相手に気を使うじゃないですか。私はそれが疲れちゃうんです」
せっかく休みを取って出かけるなら、自分の好きなように過ごしたい。見たいものを見て、疲れたら予定を変更し、食べたいときに食べる。それがアキコさんの旅のスタイルです。夫のタカシさんとも頻繁に旅行するわけではありません。ただ、長年一緒に暮らしてきた夫なら、ほかの人ほど気を使わずに済みます。
この秋、アキコさんが関西で見たい展覧会を見つけました。
「せっかくだから、その前後で京都も回ろうかな」
そう話すと、タカシさんから「今回は一緒に行こうか」と提案がありました。
「夫婦2人なら、たまには国内旅行もいいかなと思ったんです」
時期はシルバーウィーク。混雑することはわかっていたため、旅慣れているアキコさんは早めに準備を進めました。新幹線を取り、展覧会場にも観光地にもアクセスしやすいホテルを予約。日時指定制の展覧会チケットも確保しました。
「ホテルも立地と値段を見比べて、かなり早めに取りました。連休なのに2人で2泊6万円くらい。私としては『結構うまく取れた』と思っていたんです」
あとは旅行の日を待つだけでした。ところが、タカシさんが実家の母親に旅行の話をしたことで、予定が大きく変わり始めます。
「母さんも行きたいって」突然持ち上がった義母同行
タカシさんの母親は78歳。一人暮らしをしています。関西は、亡くなった義父と義母が若いころに出会った思い出の土地でもありました。タカシさんが関西旅行の話をすると、義母は「懐かしいわね。私も行ってみたいわ」と言ったそうです。そこでタカシさんは、母親を旅行に連れて行きたいと考えました。
「父さんもいないし、母さんももう78歳だからさ。元気なうちに連れて行ってあげたら、いい思い出になると思うんだ」
その気持ち自体を、アキコさんも否定するつもりはありませんでした。ただ、すぐに「いいよ」と言える話でもありません。
「義母と仲が悪いわけじゃないんです。でも、友達とも旅行しない私が、義母と旅行して気を使わないわけないじゃないですか」
食事は口に合っているか。歩くペースは速すぎないか。疲れていないか。そろそろ休憩したほうがいいのではないか。朝は何時に出たいのか――。義母が一緒となれば、旅行中ずっとそうしたことを気にする自分が目に浮かびました。
「夫婦2人だから行こうと思ったんです。そこに義母が入ったら、私にとってはもう別の旅行なんですよね」
それでもアキコさんは、その場で断ることはしませんでした。まず現実的なことを確認しようと思い、夫に尋ねました。
「お義母さんのホテルはどうするの?」
すると、さらに予想外の答えが返ってきました。
「ホテルは嫌。旅館がいい」で前提がすべて崩れる
「母さん、ホテルは嫌なんだって。せっかく関西に行くなら旅館がいいって」
アキコさんは思わず聞き返しました。夫妻が予約しているのは、展覧会や観光へのアクセスを考えて選んだ市街地のホテルです。義母だけ別の宿に泊まるのか。それとも夫婦も一緒に旅館へ移るのか。
「旅館ってどこ? 京都? 大阪? 夕食付き? それなら何時までに入るの? 展覧会からどうやって移動するの?」
次々と尋ねても、タカシさんは「そこまではまだ考えていない」と言います。さらに問題となったのが、今回の旅行の最大の目的である展覧会です。夫妻が予約している時間帯はすでに満席。いまから義母の分を同じ時間帯で追加することはできませんでした。そこでアキコさんは妥協案を出します。
「私は予定どおり展覧会を見る。その間、お義母さんが一人で買い物したり、お茶したりして待っていられるなら一緒に来てもらってもいいよ」
ところがタカシさんは、「せっかく一緒に旅行するのに、母さんを一人にするのはかわいそうじゃない?」と難色を示しました。
その言葉を聞いて、アキコさんの我慢が切れました。
「じゃあ、あなたが全部やれば?」
「私を使って親孝行しないでくれる?」
新幹線、旅館、現地での移動、食事、展覧会の時間中に義母がどう過ごすか――。アキコさんは、そのすべてを夫に任せることにしました。
「私は取ってある展覧会のチケットは変えないから。それを前提に、お義母さんが疲れないように全部組んでね」
そして、こう続けました。
「親孝行したいのはあなたでしょ。私を使って親孝行しないでくれる?」
タカシさんは「そんな言い方しなくても」と不満そうな顔をしたそうです。しかし、アキコさんには納得できないことがありました。
「母親を旅行に連れて行ってあげたいと思うところまでは夫なんです。でも、じゃあどうやって連れて行くかという段階になると、なぜか私の仕事になる。それっておかしくないですか?」
旅行好きのアキコさんがホテルや交通手段を手配することを、夫はどこかで「いつものこと」と考えていたのでしょう。しかし今回は、すでに完成している夫婦2人の旅程に1人を追加するだけではありません。宿泊先まで「ホテルから旅館へ」と変わるのです。