身体の衰えを感じて住み替えを望んでも、資金や年齢の壁に阻まれて動けない――。高齢化が進むなか、住まいの現実に直面する高齢者世帯が増えています。ある夫婦の事例から、家賃の安さだけで住まいを選ぶリスクや、将来を見据えた老後の住まいの在り方を考えていきます。
「エレベーターのない3階はもう無理よ…」年金月22万円・70代夫婦、住み替えたくても住み替えられない「過酷な現実」 (※写真はイメージです/PIXTA)

いずれ辛くなることは分かっていたが

中田徹さん(74歳・仮名)と妻の典子さん(72歳・仮名)は、築39年の市営住宅で暮らしています。夫婦の年金は月22万1,000円で、手取りにすると月19万円ほど。家賃は月3万5,000円の3DK(3階)ですが、エレベーターはありません。

 

月々の支出は年金の範囲内に収めるよう質素倹約を心がけていますが、余裕はなく預貯金は400万円ほどです。できるだけ固定費を抑えるために――この家に住み続けてきました。

 

引っ越してきたのは60代前半のとき。抽選で当たったのが、この3階の部屋でした。周囲には「エレベーターのない3階なんてやめておけ」と言う人も少なくありませんでしたが、当時は支出を抑えることが優先事項だったのです。

 

厚生労働省『2025年(令和7年)国民生活基礎調査』によると、高齢者世帯の1世帯当たり平均所得金額は336.1万円(中央値273万円)、人口1,000人当たり392.6人に上ります。中田さん夫婦のように、限られた年金や貯蓄でやりくりする高齢者世帯にとって、身体の衰えに直面した際、民間賃貸や施設などへ住み替えるための費用を確保することは高い壁となっています。

 

案の定、70代になると身体のさまざまなところに異変が生じます。現在、典子さんを悩ませているのが変形性膝関節症です。5キロの米を持って3階まで上がる途中、必ず踊り場で足を止めます。徹さんも高血圧の治療中です。

 

「病院へ行くだけでひと苦労なんです」

 

もちろん住み替えも考えました。最初に相談したのは市役所。「せめて1階に引っ越せないか」と考えたのです。しかし「1階に空きはありません。順番をお待ちください」と説明されました。

 

何年待ちになるかは分からないといいます。次に民間の賃貸住宅を探したところ、駅から少し離れたエレベーター付きの2LDKで、家賃は7万8,000円でした。毎月4万円以上、年間で約50万円の負担増となり、今より支出が増えるのは年金生活において現実的ではありませんでした。

 

さらに不動産会社では、保証会社や緊急連絡先の説明を受けたあと、こんな言葉も返ってきます。

 

「高齢のお二人だけですと、大家さんが難色を示す場合があります」

 

もちろん、すべての物件ではありません。それでも、徹さんは肩を落としました。

 

「家賃が払えないわけじゃない。それでも年齢だけで難しいと言われるんですね」

 

サービス付き高齢者向け住宅も見学しました。家賃と生活支援費を合わせると月12万円近くになります。

「ここなら安心ですよ」と勧められましたが、金額を聞くだけで諦めました。