老後に対する不安には、大きくわけて二つの種類が存在します。一つは、「十分な資金を蓄えられるのか」という目に見える「蓄財の不安」。そしてもう一つは、情報や世間の言説に煽られることで、本当は足りているのに、足りていないと思い込まされてしまう「潜在的な不安」です。昨今、将来への恐怖から収入の大半を過度な投資につぎ込む人々が話題になりますが、彼らもまた「いくらあっても足りない」という錯覚に囚われ、いま目の前にある暮らしや大切なものを見失っているのかもしれません。そしてこの「足りないという錯覚」は、ときに家族の絆さえも破壊することも。本来なら暮らしていけるだけの年金と蓄えがありながら、「老後破綻」という言葉に追い詰められたFさんの事例をみていきましょう。※個人の特定を防ぐため、事例は一部脚色しています。
「私たち家族は全員バラバラになりました」年金18万円・退職金1,500万円の70代夫婦の不幸…老後資金を食いつぶす53歳無職の引きこもり息子が、2階の四畳半から〈消えた日〉 (※画像はイメージです/PIXTA)

「楽しい老後」のイメージが湧かない日本人

長く不景気が続いてきた日本では、老後という言葉は決して楽しいイメージのものではなく、いわば恐怖や不安の代名詞となっています。そして、老後はこのくらい貯めなければならないという情報が溢れ、あらゆる年代の人が、漠然とした老後への不安を感じています。だからこそ、資産運用に多くの人が興味を持っているのかもしれません。

 

その老後の不安、よく考えてみると、二つの種類があります。

 

一つは、「気にしているだけ」で大して重要でもない不安です。老後資金はいくら貯めるべきという情報からくる不安がこれでしょう。それは誰が決めたのでしょうか。勝手に自分だけが思い込んでいるだけかもしれません。

 

人はそれぞれ自分の生き方があります。お金が十分でなくても、毎日ご飯が食べられて、病院にかかることでき、入院費を賄える生命保険があり、住める家がある。お金がなくてもそのくらいの生活ができれば十分のはずです。それを惨めだと決めつけたのは誰なのでしょうか。

 

人の人生はいろいろです。夫Fさんのように実家に問題を抱えてお金が貯まらない人もいるでしょう。不運と思うかもしれませんが、それも人生なので仕方ないのです。

 

もう一つは、潜在化して自分では気づいていない不安です。こちらは気づいたときには手遅れとなっているかもしれません。夫Fさんのように、お金の不安に苛まれ、関心を持って接するべき息子Yさんに、むしろ怒鳴り散らしてしまうと、家族をいずれ壊してしまいます。また、不安から無理なお金稼ぎに走り、結局身体を壊し、それが引き金で家族全員が不幸になってしまう。

 

Fさんも不安に思っていたお金はなんのためのお金だったのでしょうか。家族を維持するためのお金だったのか、SNSやメディアが煽る不安を解消するためのお金だったのか。ひとり息子を食わせるのは別に大きな負担ではないはず。それよりも息子に向き合って、まずはアルバイトで月2万円でも稼げるようになることを、家族として目標にすべきだったでしょう。

 

立派な仕事も、高額な年収も大切ではありません。家族が壊れるよりなら、家族みんなが食っていければいいやという気楽さを大切にしたほうがいい時代かもしれません。

 

 

長岡理知

長岡FP事務所

代表

 

 

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