(※写真はイメージです/PIXTA)
父が必死に止めたワケ
息子の言い分を聞き終えたトシヲさんでしたが、その表情は一層険しくなりました。
「……シュンジ、ちょっと待て! 話はよくわかったが、お前の考え方は甘すぎる」
トシヲさんは反論を始めました。
「まず『銀行が審査を通すから安全』というのは大きな間違いだ。銀行が見ているのは『いまの物件の担保価値』と『お前たちのいまの返済能力』であって、35年後の売却価格を保証してくれるわけじゃない。損が出たときに腹を痛めるのは銀行ではなく、お前たちなんだぞ」
そして、トシヲさんは最も懸念している「車の残クレとの違い」を指摘しました。
「それから、車の残クレはあらかじめ数年後の引き取り価格(残価)が保証されていることが多い。だが、不動産のバルーン型ローンに『残価保証』なんてあるわけがないだろう。35年後に価値が下がりまくっていたら、家を売っても借金が残る。そのときお前は65歳だぞ。どうやってその借金を返すつもりなんだ?」
「いや、だから俺たちが破綻したら、銀行だって困るだろ。そんなローン、そもそも組ませないって。それに、俺が65歳のときは定年なんてなくなってるんじゃないかな。働ける限り働くよ」と返します。
「バルーン型住宅ローン」の構造
では、シュンジさんが検討している「バルーン型住宅ローン」とは、具体的にどのような仕組みなのでしょうか。
シュンジさんが1億円のローンを35年で組む場合、従来の通常の住宅ローン(金利1%前後)であれば、毎月の支払額は約28万〜29万円になります。世帯年収1,800万円であっても、毎月約30万円近くが住宅ローンだけで消えるのは、将来の教育費や生活費を考えると負担感があり、資産運用などに回す余力がだいぶ弱まるでしょう。
しかし、今回のバルーン型ローンを適用すると構造が変わります。シュンジさんの場合、借り入れる1億円のうち半分の「5,000万円分」は元金の返済を据え置き、期間中は利息のみを支払います。そして残りの「5,000万円分」だけを35年かけてコツコツ返済していく形になります。
これにより、上乗せ金利が発生するものの、毎月の支払いは約20万円にまで圧縮されます。毎月のゆとりが生まれるため、「これなら買える」と予算を引き上げたのです。しかし、35年後の完済時には、据え置いていた5,000万円を一括返済(=物件を売却して充当)しなければなりません。
35年後のリスク
この仕組みで注意しなければならない点は、将来の不動産市場が右肩上がり、あるいは現状維持されることを前提としている点です。もし35年後、あるいはシュンジさんが売却しようとしたタイミングで不動産相場が下落していたらどうなるでしょうか。
仮に、35年後に据え置いた5,000万円の返済が必要なときに、マンションの市場価値が下がり、3,500万円でしか売れなかったとします。自宅を手放したにもかかわらず、手元には1,500万円の残債だけが残ることになります。老後に自宅を失い、さらに老後資金から莫大な借金を返済しなければならないというシナリオも十分に起こり得るのです。
なお、金融機関側がこのローンを融資する対象を「東京23区などの超都心部」「担保評価額1億円以上」などに限定しているのは、借り手を守るためだけではありません。万一の際に銀行側が未回収になるリスクを減らすための「銀行側の防衛策」に過ぎないのです。
ペアローンや50年ローン、そして今回のバルーン型ローン――。住宅ローンの「進化」によって購入予算の上限が引き上げられ、それがさらなるマンション価格高騰を招くというループが続いています。収入の限界までローンを組むのは危険です。
バルーン型のような新型ローンを検討する際は、単に金融機関の審査を通るからと安心するのではなく、相場が下落した際にも自己資金でカバーできる「生活防衛資金」を手元に残せているか、リスク管理と長期的な人生設計が求められます。
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