実家暮らしで順調な資産形成を叶えていても、予期せぬ落とし穴が潜んでいることがあります。一見安泰に見える「実家依存」のマネープランに潜むリスクとは。ある親子の事例から、子世代の自立を巡るお金の課題を紐解きます。
「実家サイコー!」〈月収35万円〉32歳・独身男性が天国から一転…「俺の人生、終わった」と絶望させた母の〈衝撃宣告〉 ※写真はイメージです/PIXTA

父親の定年退職と母の衝撃的な宣告

「お父さんも定年したし、この家を売って、もっと小さなマンションに引っ越そうと思うの。だからあなたも家を出て自立してちょうだい」

 

拓也さんは驚き、即座に反論します。

 

「いきなり家を売るなんてどうかしてる。俺はどうなるんだ。どうやって暮らしていけばいいんだ」

 

感情的になる拓也さんに、由美子さんは冷ややかな視線を向けました。

 

「お父さんの給料は半分以下になったのよ。固定資産税やこの広い家の修繕費を払い続ける余裕はもうないの。それに、毎日あなたが食べている食事代も、電気代も、全部私たちが払ってきたでしょ。32歳にもなって、親の老後資金を食いつぶしながら生きていくというのはどうなの?」

 

由美子さんによれば、築30年を超えた実家で今後も暮らしていくには、水回りのリフォームや外壁塗装などの修繕は不可欠。その額は数百万円単位になります。一方で、将来のことを見据えると、より利便性の高い地域への住み替えというのも有力な選択肢。両天秤にかけて、駅前のコンパクトなマンションへの住み替えを選んだのです。

 

「俺の人生、完全に終わった」

 

自室に戻った拓也さんは、スマートフォンの家計簿アプリを見つめながら呆然としました。そして、賃貸マンションを検索します。家を出て一人暮らしを始めれば、都内近郊では家賃だけで8万円以上がかかります。光熱費や食費を合わせれば、継続してきた月15万〜20万円の投資はほぼ難しくなるでしょう。趣味や交際費に使えるお金も大きく減ってしまうのは確実です。

 

ならば実家の売却をやめさせて自分が修繕費を肩代わりしようかとも考えました。しかし、名義変更の手間や高額な修繕費、そして何より両親の「自分たちに合った規模の住まいで、夫婦水入らずの老後を送りたい」という固い決意を変えることはできませんでした。

 

その後、拓也さんは半年間の猶予期間を利用して、一人暮らしの準備を始めました。最終的に物件の契約費用のほか、引越し代、家具・家電の購入費を含め、総額で80万円近くかかったといいます。

 

国立社会保障・人口問題研究所『第16回出生動向基本調査』によると、18〜34歳の未婚男性のうち親と同居している割合は65.9%に上ります。拓也さんのように、生活費を抑えながら実家で資産形成を進める若者は少なくありません。

 

一方で、同研究所の『第9回世帯動態調査』によると、子どもと同居する世帯から「夫婦のみの世帯」へと移行する割合は、親(世帯主)が60代前半のタイミングで30.5%とピークを迎えます。親の定年退職や老後の住み替えといったライフステージの大きな変化が、結果として親元に留まる子どもの自立を促す転換点となっている、現代の家族のリアルな実態がうかがえます。

 

「ずっと実家で暮らしていけると思ったんですが……甘すぎました」