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実家暮らしで積み上げた貯蓄
「実家なら毎月20万円以上貯金できますから。家を出る理由なんてありませんでした」
そう振り返るのは、都内のメーカーで営業職として働く中村拓也さん(32歳・仮名)。月収は約35万円。生まれてから一度も実家を離れたことはありません。一方で毎月、家にお金を入れることはありません。ただ通信費は家族割が適用されているものの、自分の分は自分の口座からの引き落としにしています。
食事は基本的に家で済ませます。家賃や水道光熱費の負担はありません。毎月の支出は月3.2万円の自動車ローン含めて10万円ほど。毎月15万〜20万円程度を貯蓄や投資に回しています。
預金は約1,000万円まで増え、「35歳で1,500万円」という目標も現実味を帯びていました。
「周りは家賃で毎月10万円近く払っています。実家暮らしは本当に得だと思っていました」
父の修さん(60歳・仮名)は会社員、母の由美子さん(58歳・仮名)はパート勤務。ふたりとも、拓也さんに何も言いません。住宅ローンは完済済みで、家計に大きな問題はないように見えていました。
金融経済教育推進機構『家計の金融行動に関する世論調査2025年(単身世帯調査)』によると、30代単身世帯の金融資産保有額は平均501万円、中央値は100万円にとどまります。このデータと比較すると、拓也さんの「預金1,000万円」は同世代の中央値を大きく引き離しており、一見すると非常に優秀な家計に見えます。
しかし、そのハイペースな蓄財は「家賃や食費の負担がない」という親の経済力に全面的に依存した結果でした。
その前提は突然崩れます。拓也さんの生活が一変したのは、修さんが定年退職を迎えたことでした。修さんは嘱託社員として同じ会社に再雇用されたものの、月収は定年前の55万円から22万円へと大きく減少します。年金受給開始までの間、世帯収入は半分以下に落ち込むことになりました。
父親の退職から1か月が過ぎた休日の夜、拓也さんは母親の由美子さんからリビングへ呼び出されます。テーブルの上には電卓と分厚いファイルが置かれていました。そして母親が静かに切り出します。