(※写真はイメージです/PIXTA)
親の介護の経験から導き出した「老後の理想の住まい」
「親を見ていて決めたんです。80歳を過ぎてからでは、家のことなんて何も決められないって」
埼玉県在住、田中和夫さん(68歳・仮名)、妻・恵子さん(66歳)。和夫さんはメーカーを定年退職し、現在は老齢年金19万円、恵子さんは年金9万円を受給しています。
二人が暮らしていたのは、35年前に建てた4LDKの木造2階建て。長男と長女を育て上げた思い出の家です。住宅ローンは60歳で完済しましたが、子どもたちは独立し、普段は夫婦だけの生活です。
それでも、お盆や年末年始には長男家族、長女家族が帰省し、孫4人が2階を走り回るのが恒例でした。その光景を見ながら、和夫さんは「あと何年続くだろう」と考えるようになります。
きっかけは実父の介護でした。80代になった父親は階段が上れなくなり、2階は物置同然になりました。冬場の浴室で転倒しかけたこともあり、家族は住み替えを勧めましたが、父親は首を縦に振りませんでした。
「今さら引っ越しなんて無理だ」
結局、父親は最後までその家で暮らしましたが、介護する母親も疲れ切っていました。
「年寄りが住むには不便な家で、もちろん介護するにも不便な家でした」
その思いが、和夫さん夫婦の背中を押しました。最初に考えたのはリフォーム。しかし、築35年の住宅は断熱性能も低く、水回りの老朽化も進んでいました。住宅会社へ相談すると、担当者から勧められたのは「平屋への建て替え」でした。
「今なら体力も判断力もあります。70代後半になってからでは、ご負担も大きくなりますよ」
その言葉は、親の姿と重なりました。夫婦は建て替えを決断します。完成したのは2LDKの平屋。段差はなく、廊下も広いバリアフリー仕様です。浴室は暖かく、トイレにも手すりを設置しました。建築費は解体費などを含め約3,400万円。退職金と預貯金を取り崩し、老後資金は約2,000万円減りました。それでも「これで安心して暮らせる」と、心から満足したといいます。
掃除は短時間で済みます。階段の上り下りもありません。冷暖房費も以前より抑えられました。
「いいことばかりでした」
田中さんのように、親の介護を機に自宅の不便さを実感し、住環境の見直しを決断するケースは少なくありません。内閣府『高齢社会に関する意識調査(高齢期の住み替えについて)』によると、住み替えの意向を持つ理由として「健康・体力面で不安を感じるようになったから」(24.8%)に次いで、「自身の住宅が住みづらいと感じるようになったから」が18.9%を占めています。
一方で、住み替え等を希望しても実現できていない理由のトップは「資金が不足しているから」(33.1%)です。田中さん夫婦が、体力や判断力、そして資金にゆとりがある60代のうちにバリアフリー仕様の住まいへ建て替えたことは、将来の不安を取り除くための合理的な選択といえるでしょう。