誰もが直面し得る親の介護。その負担は同居家族に集中しがちですが、直面する課題は決して金銭面だけではありません。十分な蓄えや収入があっても解消できない、ビジネスケアラー特有の深い葛藤が存在します。周囲の厳しい批判を受けながらも実家を出た男性の選択を通し、これからの家族と介護のあり方を紐解いていきます。
「お母さん、僕は家を出ます」手取り40万円・48歳独身男性、“親不孝者”と罵倒されても実家を出た理由 (※写真はイメージです/PIXTA)

外野で無責任なこと言わないで…48歳息子、親戚を一喝

健一さんは、実家を出る決意を固めます。それを和子さんに伝えたところ黙り込み、しばらくして言いました。

 

「私を見捨てるの?」

「一人にするなんて、そんなことできるの?」

 

健一さんは「もう全部を背負うことは無理なんだ」と首を振りました。その後、ケアマネジャーと支援体制を組み直します。デイサービスは週3回から週4回に。訪問介護は朝の服薬確認と掃除を含め、週5回に。配食サービスで毎日夕食を配達してもらい、緊急通報装置を自宅に設置。地域の見守りサービスも週2回利用することにしました。費用は月約6万2000円。年金との差額は、和子さん自身の預貯金から支払うことにしました。

 

健一さんが徒歩15分のワンルームマンションを借りたことを知ると、叔父や叔母などの親戚から電話がかかってきました。

 

「母親を一人にして、自分だけ楽をするのか」

「そんなの介護放棄だ」

「親不孝者だな」

 

健一さんは、初めて言い返しました。

 

「じゃあ、介護を代わってくれますか? 外野で無責任なこと言わないでください」

 

引っ越しの日、和子さんは玄関で泣いていたといいます。別居から半年。健一さんは毎日通うのをやめ、週3回程度、顔を出すようにしています。最初の頃、和子さんは何度も電話をかけてきました。しかし、ヘルパーや配食スタッフと接するうちに、少しずつ変化が出てきました。

 

「今日の煮魚、おいしかったよ」

「ヘルパーさんが庭の草を見てくれた」

「薬、ちゃんと飲めたから大丈夫」

 

以前は「あなたがやって」が口癖だった母が、自分の生活を自分の言葉で話すようになったのです。

 

「同じ家にいた頃は、母の顔を見るたびにイライラしていました。今は1時間話して、『また来るね』と言って帰ることができます」

 

厚生労働省の『国民生活基礎調査』のデータによると、要介護者等のいる世帯のうち「単独世帯」の割合は33.2%に上ります。また、主な介護者の内訳を見ると「同居」の家族が46.1%を占める一方で、「別居の家族等(13.4%)」やヘルパーなどの「事業者(16.0%)」が介護を担うケースも約3割を占めています。

 

「親の介護は同居して家族がみるべき」という旧来の価値観に縛られて子世代が無理を重ねれば、かえって親の依存を強め、共倒れを招く危険があります。健一さんのようにあえて物理的な距離を保ち、プロのサービスを頼ることで「親自身の持つ力」を引き出すことは、親の尊厳と子の人生の双方を守るための愛情深い選択といえるでしょう。