定年退職を迎え、十分な蓄えとともに穏やかな老後を思い描いていた矢先、予期せぬ事態から一人きりの生活を余儀なくされる――金銭面の不安がなくても、親の介護や社会的孤立といった「老後リスク」は突然訪れるものです。充実したセカンドライフを迎えるために何が必要なのか、現実の葛藤から考えます。
定年退職の翌朝、テーブルに残された置手紙…〈退職金3,800万円〉60歳元本部長が、タワマンで一人ぼっちになった日 (※写真はイメージです/PIXTA)

親の介護…いつまで続くかわからない

定年退職から1ヵ月ほど経った夜、この日もスーパーで総菜を買って帰宅しました。食事はほぼ外食。何とか洗濯は自力でできるようになりましたが、基本的に部屋は散らかり放題。ゴミ出しを逃し、部屋の中にゴミ袋がいくつも重なることもしばしば。

 

一人きりの食事は、いまだになじめません。テレビから流れてくる楽しそうな笑い声も、どこか空しく感じます。現役時代、高橋さんの周りには常に人がいました。会社でも家でも“頼られている”という実感があったのです。退職した途端、周囲に人がいないことが当たり前になりました。“家に一人”がデフォルトです。

 

「このまま妻が帰ってこず、ずっと1人――そんなことを想像して息苦しくなることがあります」

 

内閣府『令和7年 人々のつながりに関する基礎調査結果』によると、現在の孤独感に影響を与えた出来事として、孤独を感じている人の12.2%が「転校・転職・離職・退職」を挙げています。さらに「一人暮らし」と回答した人も19.4%に上ります。

 

高橋さんのように、仕事中心の生活を送ってきた人が定年退職を迎えると、会社という大きな社会とのつながりを突然失うことになります。そこに配偶者の介護帰省などによる「予期せぬ一人暮らし」が重なることで、家庭にも地域にも自らの居場所を見出せず、急激に強い孤独感に襲われるケースは決して珍しくないのです。

 

孤独感からか、何もやる気が起きない日々に、「このままではいけないと思いました」と高橋さん。週に1回、区の料理教室に通い始めたといいます。包丁の持ち方から教わり、みそ汁と焼き魚を自分で作れるようになり、自炊をすることも増えたとか。

 

妻の実家での介護は、今も続いています。週末に妻が一時的に戻ってくることはあっても、以前のように二人で過ごす日常がいつ戻るのか、目途は立っていません。定年後に直面した予期せぬ日常とどう向き合っていくのか。高橋さんの模索は続いています。