子どもや孫の帰省は嬉しい反面、年金暮らしの高齢親にとって費用負担は切実な問題です。「今年は帰省しない」という連絡に、思わず安堵してしまう親の心理の背景には何があるのでしょうか。今回は、ある70代夫婦の実例から高齢親が抱えるお金の悩みと葛藤を紐解き、新しい帰省の形を考えます。
「今年のお盆は帰らないから。」東京で暮らす45歳長男からのLINEに〈年金月23万円〉70代夫婦が歓喜したワケ ※写真はイメージです/PIXTA

浮いたお金でご馳走を…70代夫婦の罪悪感

長男から「帰らない」と連絡が来た夜、夫婦は近所のうなぎ店に行きました。2人で8,400円。普段ならためらう金額です。

 

「今年は帰省費用が浮いたんだから、たまにはいいだろう」

 

一度の帰省で15万〜20万円の出費は避けられなかったことを考えると、2人で1万円以下の食事なんて安いもの。普段はなかなかできない贅沢に大満足だったといいます。しかし帰宅後、和子さんは「こんなことで喜ぶなんて、親としてどうなんだろうね。あと何回顔を見られるか、わからないのに」と漏らします。

 

長男が帰省しない理由は、中学生になった上の子の部活と、中学受験を控える下の子の塾のスケジュールを考えると、日程的に厳しい――というもの。

 

「ごめんな、本当は顔を見せたかったんだけど、子どもたちが小さかったころみたいにはいかなくて」

 

その後、電話で謝った長男。まさか、「今年はお金がかからないから」とうなぎを食べに行っているなんて思ってもいないでしょう。罪悪感から、後日、お小遣いを送ったという田村さん夫婦。「帰ってこないことを思わず喜んでしまった……せめてもの罪滅ぼしです」と、2人の孫に計3万円のお小遣い。例年に比べて4分の1の出費で済みそうな点は、家計が苦しいなか助かるというのが本音ではありました。

 

国立社会保障・人口問題研究所『第7回全国家庭動向調査』によると、過去1年間に親(母親)が子や孫のために使った金額は「6万円未満」と「6〜12万円未満」の金額帯に集中する傾向にあり、たとえば近居する結婚した息子(有配偶子・男性)に対しては、これらを合わせた割合が50%台に上ります。

 

子どもや孫を温かく迎えたい気持ちと、限界のある家計を守りたい切実な本音。遠く離れて暮らす子世代を想い、身を削りながら支援を続ける高齢親の姿が浮き彫りになりました。お互いに無理や負担を抱え込まず、笑顔で顔を合わせられる「新しい帰省の形」を模索していくことが、これからの時代に必要なのかもしれません。