子どもや孫の帰省は嬉しい反面、年金暮らしの高齢親にとって費用負担は切実な問題です。「今年は帰省しない」という連絡に、思わず安堵してしまう親の心理の背景には何があるのでしょうか。今回は、ある70代夫婦の実例から高齢親が抱えるお金の悩みと葛藤を紐解き、新しい帰省の形を考えます。
「今年のお盆は帰らないから。」東京で暮らす45歳長男からのLINEに〈年金月23万円〉70代夫婦が歓喜したワケ ※写真はイメージです/PIXTA

離れて住む長男から「帰省しない」の連絡

「今年のお盆は帰らないから。子どもたちの予定もあるし、また秋にでも」

 

東京都内で暮らす長男から届いたLINEを見て、田村正雄さん(74歳・仮名)は思わず声を上げました。

 

「よかったな。これで今年は静かに過ごせる」

 

妻の和子さん(72歳・仮名)も、ほっとした表情を見せたといいます。2人が暮らすのは、地方都市の築38年の戸建て。正雄さんは仕事をやめて早10年。現在は月23万円ほどの夫婦の年金のなかでやりくりする日々を送っています。

 

ただ例外なのが、帰省シーズン。お盆のあたりには長男家族が、お正月あたりには長女家族が泊まりがけで帰省するのがお決まりのパターン。長男家族も長女家族も義娘・義息子と、2人の孫の4人家族。帰省の間にかかる費用は基本的に田村さん夫婦が持っています。

 

「どちらも飛行機や新幹線でやってくる。チケット代の高い時期ですし、10万〜15万円くらいかかるはず。それなのに、さらにお金を出してもらうなんてとんでもない」

 

帰省の際には事前に食べたいもの、行きたいところを聞いておいて、完璧に準備。1回の帰省で3〜4泊し、そのおもてなしでクタクタになるといいます。そしてその間の支出は、大体年金1ヵ月分にのぼるのだとか。

 

「来てくれるのはうれしい。ただ財布的には厳しいというのが本音」

 

厚生労働省『2025年(令和7年)国民生活基礎調査』によると、高齢者世帯の1世帯あたり平均所得金額は336.1万円で、全世帯平均の575.2万円を大きく下回っています。また、日々の生活を「苦しい(大変苦しい21.0%・やや苦しい31.1%)」と感じる高齢者世帯の割合は合計52.1%と半数を超えており、年金中心の限られた家計において一度に十数万円の特別支出は重い負担となります。