「役職定年を迎えても、定年まで会社が守ってくれる」――。しかし、ある日突然、人事制度の変更や年下上司からの宣告によって、キャリアの梯子を外されるケースも。ある男性の事例から、激変する労働市場を生き抜くヒントに迫ります。
〈年収1,400万円〉だった55歳元部長、「役職定年くらい平気」の誤算。年下上司面談から3ヵ月、「ハローワーク」で直面した屈辱 (※写真はイメージです/PIXTA)

管理職経験は評価されるが…

最終的に藤原さんは早期退職を選びました。年下上司との面談から3ヵ月後のことです。

 

役職定年後に会社へ残れば、年収は1,000万円前後を維持できると思っていました。しかし、粘りに粘っても、結局退職するしかないことはわかっていました。それであれば自分からスパッと辞めたほうが得だろう――そう判断したのです。

 

実際に上乗せされた退職金は約2,000万円。住宅ローンを完済しても手元には老後資金が残る。「今辞めても何とかなる」。そう考えたことも、早期退職を決断した理由の一つでした。

 

退職後、まず相談したのは転職エージェントでした。さらに取引先やOBにも連絡しました。紹介された求人は、想像よりはるかに少なかったといいます。

 

「管理職経験は評価されます。ただ、募集自体がほとんどありません」

 

同じような説明が続きました。半年ほど活動しても、希望に近い案件は決まりません。

 

そこで初めて、藤原さんはハローワークにも足を運びました。受付で番号札を受け取り、順番を待つ。周囲を見渡すと、自分より若い人もいれば、同年代もいました。

 

「まさか、自分がここで職を探すとは思ってもいませんでした」

 

ここで紹介された求人の多くは年収400万~600万円台でした。担当者は丁寧に求人票をめくりながら尋ねます。

 

「営業経験とのことですが、ご自身で新規開拓はできますか」

「プレイングマネジャーとして営業活動も担当できますか」

「部下がいない環境でも問題ありませんか」

 

会社名や肩書よりも、現場で何ができるのか。そこだけが繰り返し確認されました。大手の部長だったプライドはズタズタに引き裂かれました。「お前はこの市場では何のニーズもないよ――」そう言われている気がしたのです。

 

内閣府『令和8年版高齢社会白書』によると、職業に関する能力を自発的に開発・向上させるための「自己啓発」を行っている割合は、50代で31.4%、60歳以上になると20.6%にまで低下します。多くの人が社外で通用するスキルの学び直し(リスキリング)を怠ったまま、厳しい労働市場に放り出されているのです。

 

「大企業の部長」という過去の栄光は、一歩外に出れば通用しません。ジョブ型雇用が広がり会社依存がリスクとなる今、現役時代からの戦略的なスキルの棚卸しと継続的な自己啓発が、人生後半のキャリア転落を防ぐために重要です。