高収入世帯だからと、必ずしも安心というわけではありません。夫婦間の「金銭感覚のズレ」や「隠れた問題」を見過ごすと、老後の平穏は一瞬で崩れ去ります。ある夫婦の危機的な状況をきっかけに、誰もが直面し得る「老後破綻のリアル」について考えます。
1円単位で管理しています〈年金月17万円〉〈老後資金3,200万円〉65歳男性、質素倹約が美学だったが…17年後に抱いた「後悔の正体」 ※写真はイメージです/PIXTA

「減らさない」が人生の目標

「1円でも帳尻が合わないと落ち着かないんです」

そう話すのは、東京都内で暮らす元地方公務員の池田 恒一さん(82歳・仮名)。65歳で定年退職した時点の金融資産は約3,200万円。退職金2,100万円と、それまで積み立ててきた預貯金を合わせた金額でした。現在の年金収入は月17万円、手取り14.5万円ほど。妻は5年前に他界し、以来、一人暮らしです。

 

家計簿は毎日つけます。電気代、水道代、食費まで1円単位で記録します。毎月の生活費は約11万5,000円。内訳は、食費3万2,000円、光熱費1万4,000円、通信費5,000円、医療費1万2,000円、管理費・固定資産税など住居関連が約2万8,000円。そのほか雑費です。

 

年金だけで生活費は十分に賄えます。さらに毎月約3万円が残るため、預金は少しずつ増えていました。82歳になったときの金融資産は、年金を受け取り始めたときと比べて、500万円ほど増えました。

 

「老後破産だけは絶対に嫌だった。だから使わないことが正解だと思っていました」

 

池田さんにとって、節約は生活術ではありませんでした。人生そのものだった、といっても過言ではないのです。

 

金融経済教育推進機構『家計の金融行動に関する世論調査2025年』によると、老後の生活が「心配である」と回答した割合は、70代の単身世帯で64.0%、二人以上世帯では67.3%に上ります。同調査で金融資産の保有目的をみると、いずれも「老後の生活資金」(単身72.2%、二人以上67.4%)に次いで「病気や不時の災害への備え」(単身56.9%、二人以上56.7%)が高くなっています。池田さんのように十分な資産があっても、将来の健康リスクなどへの不安からお金を使えない高齢者は少なくないのでしょう。

 

実際に総務省『家計調査(貯蓄・負債編)2025年』を見ても、その傾向は明らかです。二人以上世帯における「世帯主が70歳以上の無職世帯」の平均貯蓄額は2,404万円、さらに高齢の「世帯主が75歳以上の無職世帯」でも2,392万円と高水準を維持しています。年齢を重ねても万が一に備えて預貯金を取り崩せず、資産を抱えたまま老後を過ごす高齢者の姿が、この数値からも浮き彫りになっています。