大企業で年収1,200万円を稼ぎ、順風満帆なエリート人生を送っていた50歳の男性。しかし、突如言い渡されたのは子会社への「片道切符」の異動でした。出世コースから外れ、将来の収入減やローン返済への不安から絶望する夫。意を決して妻に打ち明けた夜、返ってきた「まさかの一言」に涙した理由とは――。
「出世コースから外れ、妻の顔が見られなくて…」年収1,200万円・50歳エリート会社員。失意のなか妻から言われた「まさかの一言」に涙のワケ (※写真はイメージです/PIXTA)

妻の「余裕が生まれる」という言葉

出向の話を妻に伝えた日のことを、田中さんは鮮明に覚えています。夕食後、リビングで辞令を見せました。

 

「俺、もう本社には戻れないと思う」

 

そう話す田中さんに対し、妻の美智子さん(48歳・仮名)は少し間を置いて答えました。

 

「それじゃ、少し、余裕が生まれるということ?」

 

田中さんは驚きました。

 

「給料が下がるかもしれない話をしているのに、余裕という言葉が出てくるとは思いませんでした」

 

自分は失敗したと思っていました。妻に申し訳ないと思っていました。しかし、美智子さんの考えは違いました。

 

「あなた、最近、ずっと苦しそうだったし」

 

本社で重要案件を任され、部下を管理し、上司の評価を気にする日々。帰宅後も仕事のメールを確認し、休日でも会社の予定を優先することが増えていました。美智子さんにとって、夫が本社にいるか、子会社にいるかは最も重要なことではありませんでした。

 

「これまで十分稼いでもらったから。これからはスピードを落としても大丈夫」

 

その言葉を聞いた時、田中さんは涙が出たといいます。現在、田中さんは出向先で勤務を続けています。収入は大きく変わっていませんが、将来の給与減少を見据え、自ら家計の見直しを図りました。

 

毎月5万円だった小遣いを、1万円減らしてもらいました。これまで昼食は外で済ませていましたが、今は自分でおにぎりを2個握って持って行っています。妻との会話も増えました。以前は一方的に仕事の話をすることが多かった会話が、老後の生活や休日の過ごし方に変わりました。

 

「出向になったことで、会社員としては悔しい思いがあります。今でも同期の昇進を見ると複雑な気持ちになります」

 

一方で、落ち着いて、妻との今後のことを見据えることができるようになったといいます。

 

「私はこれまで定年まで走り抜けることを考えていました。走り抜けたあとのことは、ゴールしてからでいいと。今はゴールしたあとのことを考えて準備を始めることができています。漠然とした老後の不安が減った気がします」