大学進学時に利用しはじめた奨学金。多くの学生が毎月自動的に振り込まれる環境に慣れていくが、在学中に「借入状況を立ち止まって考える機会」はそう多くない。本来であれば状況に合わせて軌道修正できたはずの仕組みが、なぜ卒業後のライフプランを揺るがすほどの深刻な足枷へと変わってしまうのか。現在27歳のAさんの事例を紹介しよう。
飲み代、ゼミ合宿代、免許代…手取り月26万円・現在27歳の男性、大学在学中の借金が「総額288万円」まで膨らんでしまったワケ (※写真はイメージです/PIXTA)

必要以上の奨学金を「途中で止めない」学生がいる理由

Aさんの状況は、家庭が経済的に困窮していたわけでも、進学のために在学中ずっと借り続けなければならなかったわけでもない。入学時の資金を補うために借りはじめ、その後も見直す機会があったにもかかわらず、結果として借入は卒業まで続いた。

 

これは単純にAさん個人の判断ミスと言い切れるだろうか。奨学金はあくまで教育のために使うことを前提として借りるお金だが、奨学金の種類によるものの使用用途は原則自由。そうはいっても、前提から外れ、飲み代に使用したことは決して褒められたことではないが、Aさんのケースにおける問題の本質は、奨学金を借りる際の、必要額を事前にシミュレーションする機会や、在学中に借入状況を見直すための案内が十分とはいえない点にあると考える。

 

奨学金の制度は「止める」という選択肢をわかりやすく提示しない。一度申し込めば毎月自動的に振り込まれ、特になにもしなければ継続される。「今月から止める」という積極的なアクションが必要だが、そのことを意識している学生は少ない。借りる仕組みはスムーズでも、止める仕組みは能動的な判断を要する——この非対称性が、Aさんのような「気づいたら288万円」という状況を生むのではないか。

 

「借りるための支援」だけでなく、「借りすぎないための支援」もまた、制度に求められる。

 

「見直しにくさ」という課題

Aさんが気にしていた住宅ローンへの影響は、決して特別な話ではない。住宅ローンの審査では、金融機関によって基準は異なるものの、奨学金を含めた毎月の返済額が返済能力を判断する材料となり、借入可能額に影響する場合がある。奨学金は卒業後も10年、15年、場合によっては20年にわたって返済が続くケースがあり、そのあいだに結婚や子育て、住宅購入など、人生の大きなライフイベントを迎える人も少なくない。進学時には意識しなかった借入が、社会に出てから別の形で影響をおよぼすこともある。

 

こうした状況を受け、近年は奨学金制度の見直しも進んでいる。2024年4月には、日本学生支援機構の「減額返還制度」の利用対象となる収入基準が拡大され、給与所得者の場合は年間収入325万円以下から400万円以下へ引き上げられた。扶養する子どもが2人いる世帯では500万円以下、3人以上の世帯では600万円以下まで対象が広がり、より多くの返還者が制度を利用しやすくなっている。

 

また、2025年度からは、文部科学省の「高等教育の修学支援新制度」において、多子世帯の学生を対象に、所得制限なく大学等の授業料・入学金を一定額まで減免する措置も始まった。返済負担そのものを軽減する方向へ、制度は少しずつ広がりを見せている。

 

一方で、制度を充実させるだけでは十分ではない。Aさんのように、本来であれば途中で借入を見直せたケースも少なくないからだ。借りはじめる前に必要額を考える機会を設けること。借入中も「本当にこのまま借り続ける必要があるのか」を確認できる仕組みを整えること。そして返済が始まったあとも、利用できる支援制度を適切なタイミングで届けること。「止め時がわからないまま借り続けた」というAさんの事例は、奨学金制度に必要なのは「借りやすさ」だけではなく、「見直しやすさ」でもあることを示している。

 

〈参考〉

日本学生支援機構「減額返還がさらに利用しやすくなりました」

https://www.jasso.go.jp/news/1210081_1579.html

文部科学省「高等教育の就学支援新制度」

https://www.mext.go.jp/a_menu/koutou/hutankeigen/

 

 

大野 順也

アクティブアンドカンパニー 代表取締役社長

奨学金バンク創設者

 

【注目のセミナー情報】​​​

【資産運用】7月22日(水)オンライン開催
《2026年・富裕層のマネー戦略》
「投資信託×保険」の資産形成アプローチ

 

【アメリカ不動産投資】7月27日(土)オンライン開催
過去10年間で住宅価格が1.9倍に上昇したエリアも!
「減価償却×ドル建て資産」を活用した資産形成戦略