内閣府の調査によると、高齢者の住み替え意向において、「利便性」を求める声がトップ。老後の安心を求めてマイホームを手放す選択は一見正解に思えます。しかし理想と現実のギャップに直面するケースも少なくありません。郊外の戸建てから駅前マンションへと移り住んだ、ある夫婦が迎えた想定外の結末を見ていきます。
「もう限界、家を売りたい……」駅前マンションに引っ越した〈年金月30万円〉70代夫婦。半年後に漏らした「2度目の限界」 (※写真はイメージです/PIXTA)

住み替えて分かった「40年弱住んだ元マイホーム」の魅力

ところが、半年ほど過ぎた頃から、予定になかった支出が続き始めます。最初は管理組合からの通知でした。大規模修繕に備え、修繕積立金が翌年度から月6,000円値上げされるという内容です。

 

「まあ、それくらいなら」

 

そう思っていました。その直後、給湯器の交換が必要になりました。さらに浴室暖房乾燥機も寿命を迎えました。エアコン2台も買い替えです。気づけば半年で約90万円が消えていました。一方、毎月の家計も想定より重くなります。
管理費と修繕積立金で4万円。固定資産税を月割りで約1万5,000円。光熱費は約2万7,000円。医療費は夫婦で約2万5,000円。食費や通信費、保険料などを合わせると、毎月の支出は約25万円に達していました。年金だけで毎月の支出を賄うのは限界を迎えようとしていました。

 

もちろん預金を取り崩せば済む話です。しかし博さんは、その「取り崩し」が想像以上につらかったと振り返ります。

 

「通帳の残高が減る。それを見続ける生活は、思っていた以上に精神的にきついものでした」

 

和子さんも別の負担を感じ始めていました。マンションには便利さがあります。その一方で、管理組合の理事、各種総会、近隣への生活音の配慮など、戸建てとは違う人間関係があります。

 

「掃除機をかける時間、洗濯機をまわす時間、色々なことを気にしないといけない」

 

さらに駅前という立地は便利である反面、人通りが多く、夜遅くまで騒がしい日もあります。静かな住宅街で過ごしてきた2人にとって、慣れが必要でした。

 

引っ越しから半年後。博さんは食卓でぽつりと言いました。

 

「もう限界だ。前の生活が恋しい」

 

和子さんも「そうね」と応えます。

 

最初の「限界」は郊外の戸建てでの暮らしでした。次に「限界」を迎えたのは、駅近マンションでの暮らしです。
しかし現実は簡単ではありません。諸経費や引っ越し費用も考えると、購入費用以上にお金がかかります。何より年齢の問題もあります。新しい住まいを探すこと、さらに環境を変えることは、想像以上に負荷がかかります。

 

サービス付き高齢者向け住宅を見学しましたが、「まだ早い」という引っかかりを感じます。

 

「どこでも一長一短あるのはわかります。ただ『住めば都』と思えるまで、私たちにはまだ時間が必要で……」

 

博さんは苦笑します。前出の内閣府調査によれば、住み替え先に期待することとして「静かで落ち着いて暮らせること」も487ポイントを集めています。利便性だけでなく、長年の生活リズムに合った安らぎを重視する声も少なくありません。高齢期の住み替えで真に重要なのは、利便性と心身の落ち着きの「バランス」を見極めることだといえそうです。