(※画像はイメージです/PIXTA)

2026年2月末以降の中東情勢の緊迫化により、ホルムズ海峡が閉鎖され、原油価格の高騰をはじめ、各所でさまざまな影響が生じています。原油価格だけでなく、物流費やエネルギーコスト、石油由来の原材料価格にも影響が広がっています。影響を受けているのは大企業だけではなく、多くの中小企業も同様です。「値上げすべきか」「取引先や顧客にどう説明するか」「原材料が確保できなくなったらどうするか」といった難しい判断を迫られています。本稿では、中小企業診断士の有村知里氏が、コスト増と供給不安に直面する中小企業がおさえておきたい、原価の把握、価格や業務の見直しのポイントについて解説します。※本記事は大同生命が運営する『どうだい?』からの転載記事です。

1.ホルムズ海峡封鎖をめぐる混乱で中小企業に及ぶ影響

日本は原油輸入の9割以上を中東に依存しています。2026年春の中東情勢の緊迫化により、原油輸送の要衝であるホルムズ海峡をめぐる問題は、国内企業に影響を及ぼしています。

 

財務省貿易統計速報によれば、2026年4月の中東からの原油および粗油の輸入数量は、前年同月比67.2%減となりました。輸入額と数量から単純計算すると、輸入単価は前年同月より約36%高い水準です。

 

問題は原油価格や燃料費の上昇だけではありません。石油由来の原材料を使用する企業では、材料の確保、価格や納期の見通しを立てることが喫緊の課題となっています。

 

国際情勢の先行きを明確に予測することはできませんが、価格と供給の両面で、企業には慎重かつ迅速な対応が求められています。

 

「今までどおり」には限界がある

原材料費や物流費、光熱費などが上がっても、すぐに販売価格に転嫁することには慎重な企業も多いでしょう。BtoB企業であれば、「長年取引してきた相手に言い出しにくい」、「価格を上げれば他社へ切り替えられるのではないか」という不安があります。また、小売業やサービス業などのBtoC企業でも、顧客離れを心配し、価格を据え置いたままコストを吸収しようとするケースが少なくありません。

 

しかし、現在のように調達や納期の見通しさえ不透明な局面では、「今までと同じ価格・同じ納期・同じ条件」を維持することが、かえって無理な約束になりかねません。利益が残らなければ、社員の給与や品質の維持、設備の管理にも影響します。原材料が入手できなければ、価格を据え置いても納品そのものが難しくなります。

 

こうした場合には、問題を自社だけで抱え込まず、価格や納期を見直さざるを得ない状況を、取引先や顧客へいち早く伝える必要があります。

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2.焦って値上げする前に、まず「原価」をたしかめて

とはいえ、価格を見直したいと思っていても、すぐに取引先や顧客へ説明できるとは限りません。経営相談の現場で話を伺っていても、経営者側が「どの商品で利益が出ているのか」や「どの取引が採算を圧迫しているか」が十分に把握できていないケースがあります。

 

売上はわかっていても、商品ごとの原価や利益までは見えていない。材料費は確認していても、包装資材や運賃、外注費、光熱費、作業にかかる時間などが価格に十分反映されていない……。こうした状態では、価格改定を申し入れる際にも、取引先が納得できる説明が難しく、「値上げを認めてほしい」というお願いになりやすくなります。

 

実際、2026年版中小企業白書によると、原価を製品・商品・サービス単位で把握している事業者で、価格転嫁できなかった割合は12.0%でした。一方、原価を把握していない事業者では23.3%にのぼっています。データをみても、「原価がわかっていないと価格転嫁が進まない」という傾向がみられます。

 

だからこそ、まずは自社の商品やサービスにどれだけの費用がかかり、事業を続けるためにはどれだけの利益を残さねばならないのかを可視化することが重要です。すべてを一度に分析するのが難しければ、売上の大きい商品や主力サービスに絞って確認してもいいでしょう。それだけでも十分価格を見直す判断材料になります。

 

中小企業庁(経済産業省)が全国47都道府県に設置している無料の経営相談所よろず支援拠点の公開事例によれば、鳥取県の食品製造販売事業者である「有限会社なんば商店」は、原材料や包装資材、運賃などの値上げを受け、商品別の原価計算を改めて行い、目標粗利を設定したうえで販売価格の見直しに踏み切りました。

 

「いくら値上げをするのか」ではなく、「いくら利益を出したいのか」という考え方で価格を見直した結果、売上が減少しても黒字化につながったそうです。同社ではその後、国産鴨肉の品薄を受け、一部を輸入品に切り替える対応も行っています。

 

このように、原価を把握すると、価格の見直しだけでなく、材料の入手が難しくなった際にどの商品を優先するのか、代替材料を使えるのかを判断する土台にもなります。

3.取引先には、価格だけでなく納期や今後の対応もセットで伝える

BtoB取引では、長く付き合ってきた取引先ほど、価格改定を申し入れることに不安を感じる経営者も少なくありません。特定の取引先への売上依存度が高ければ、「価格を見直すことで取引に影響が出るのでは」と考えるのも自然なことです。

 

とはいえ、2026年版中小企業白書によれば、最大の取引先への売上依存度が75%以上の事業者で、価格転嫁できなかった割合は20.0%でした。一方、依存度が25%未満の事業者では12.1%となっています。価格改定の難しさには、こうした取引構造も関係していることがわかります。

 

今後も安定して取引を続けるためにも、見直しが必要な理由を数字や状況とともに示すことが大切です。

 

先述したよろず支援拠点の公開事例では、香川県の精密機械部品メーカー「松原鉄工株式会社」の事例も紹介されています。同社では、過去20年以上にわたり実際の価格改定が行われず、価格の決め方も経験に頼る部分がありました。そこで、売上の大半を占める主要製品について販売価格と原価の差を確認し、これまで価格に十分反映されていなかった運送費も整理しました。

 

そのうえで約200種類の価格改定を申し入れたところ、主要取引先からおおむね希望に沿った価格転嫁が了承される見込みとなりました。さらに、人件費や設備の稼働時間などを踏まえ、今後の価格改定に活かせる仕組みづくりにも取り組んでいるそうです。

 

現在のように、材料の入手や納期の見通しが揺らぐ状況では、取引先へは単価だけでなく、対象商品や適用時期、原材料価格の変動分の扱い、納期への影響、状況が落ち着いたあとの見直し方針などもセットで伝えるようにしましょう。

 

具体的には、たとえば基本価格とは別に、原材料価格の変動分を一定期間の調整費として示す方法が考えられます。この場合も、算定の考え方や見直しの条件を明らかにしておくことが重要です。また、必要な情報を整理し、取引先に早めに伝えることが大切です。

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4.コスト増と供給不安は、自社の慣習を変えるチャンス

一方で、見直すべきことは価格や納期だけではありません。こうしたコスト増に直面したときこそ、社内に残る"隠れコスト"や、長年変えずに続けてきたムダな業務を見直すチャンスでもあります。


たとえば、通信機器やシステムを切り替えた場合は、以前の契約や利用料がそのまま残っていないか見直してみましょう。また、FAXによる受発注、帳票類の印刷、請求書の封かんや郵送なども、「これまでそうしてきたから」という理由だけで続けていないでしょうか。ムダな業務は、金額だけでなく、それを扱う時間もコストの一部です。


「このままでは原材料の入手が不安定になる」という場合には、仕入先や調達経路が偏っていないか、代替材料や仕様変更の余地はないか、納期やロット条件を見直せないかなども確認しましょう。


この機会にこうしたコストを削減し業務の進め方を整理することで、限られた人員や材料で無理なく仕事を続けられるようになり得るのです。平常時にはなかなか変えにくくとも、環境が大きく変わる今こそ、いいきっかけになるのではないでしょうか。

5.まずは「主力商品」と「主要取引」の確認を

世界情勢やそれに伴う外部環境の変化は、一企業の努力だけで止められるものではありません。しかし、自社の商品やサービスにどれだけのコストがかかっているのか、材料や納期にどのような不安があるのかを見直すことで、自社も取引先もムリなく業務を続けられる道がみえてくるのではないでしょうか。

 

まずは、主力商品や主要取引について、次の3つを確認してみてください。

 

①今の価格のままで、必要な利益が残せるか
②材料の調達や納期に不安が出ていないか
③価格や納期を見直す必要がある場合、取引先になにを伝えるべきか

 

コスト増と供給不安は、値上げだけでは解決できません。原価を把握し、調達や業務のあり方を見直し、必要な価格の根拠や供給の見通しを取引先や顧客に伝えること。それは、社員の働く場を守り、取引先や顧客との信頼を育て、会社を継続していくための備えとなります

 

〈参照・出典〉

2026年版中小企業白書「第1部 第6節「価格転嫁」」
よろず支援拠点・生産性向上支援センター「原材料の高騰による利益率の低下を販売価格の見直しにより大幅な利益改善を図る」
よろず支援拠点・生産性向上支援センター「価格転嫁による適正利益の確保と原価管理体制の構築」

 

 

有村 知里
中小企業診断士
アイパス経営コンサルティング株式会社 代表取締役

 

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※本記事は大同生命が運営する『どうだい?』からの転載記事です。