物価高が長引くなか、高齢の親が生活の苦しさを子どもに隠し続けるケースが増えています。「年金で暮らせているから大丈夫」という言葉の裏で、食費や生活費を極端に切り詰めている人も少なくありません。元気な声で電話をかけてくる82歳の母。その言葉を信じていた娘が、実家の冷蔵庫を開けた瞬間に知った現実とは。親の老いと見えにくい貧困について見ていきます。
「娘に頭を下げるくらいなら、食べなくてもいい」〈年金月16万円〉82歳母の強がり。空の冷蔵庫を見た54歳娘の涙 (※写真はイメージです/PIXTA)

母「迷惑だけはかけたくない」

さらに由美子さんは、押し入れの奥で複数の封筒を見つけます。中には現金が入っていました。5万円、3万円、1万円――少しずつ積み立てたお金です。合計すると100万円近くになっていました。

 

「これ、何?」

 

由美子さんが尋ねると、和子さんは困ったように笑います。

 

「もし私が倒れたら、あんたたちがお金を出すことになるでしょう」

「それだけは嫌なのよ」

 

由美子さんは胸が締め付けられました。母は浪費していたわけでも、借金があるわけでもありません。むしろ逆でした。将来子どもに迷惑をかけたくない一心で自分の生活を削り、十分な食事さえ我慢していたのです。助けを求めれば娘は支援してくれるはずです。それでも「困っている」と口にした瞬間、親としての立場が崩れてしまう気がしたのでしょう。

 

「まだ大丈夫」「何とかなる」――。そう言い聞かせながら、毎日の食費を削り続けていたのです。そんな母の思いを知らず、由美子さん、思わず泣けてきたといいます。

 

帰り際、由美子さんは買い込んだ食材を冷蔵庫へ詰めました。肉や魚、卵や野菜。しかし和子さんは少し困った顔をして「こんなにいらないのに」と、つぶやきました。

 

「栄養失調で倒れられたほうが面倒なのよ」と、あえて憎まれ口をたたいた由美子さん。親が本当に苦しくても、子どもには見せない、むしろ笑顔で隠してしまう。その現実を知りました。

 

「だからこそ、先回りして面倒を見てやろうと決めたんです」

 

そう語る由美子さん。以前より「元気にやってる?」という電話の回数が増えました。そのたびに和子さんも「元気にやってるわよ」と明るい声で返すのが定番だといいます。