親の死後、遺品整理のなかで思いもよらない負債や契約が発覚するケースが少なくありません。家族が知らないまま積み上がった借金は、残された遺族の生活を大きく揺るがします。ある一家の事例を通して、「亡くなった親の借金」が家族にもたらす現実を見ていきます。
「なんてひどい父親だ!」亡父の書斎から見つかった「黒いノート」。〈年金月14万円〉62歳母と娘が知った、真面目な父の裏の顔 (※写真はイメージです/PIXTA)

母の年金は月14万円

節子さんの収入は遺族年金と自身の老齢年金のみです。月額14万円ほど。固定資産税や光熱費を差し引くと、生活費に回せるお金は限られます。仮に家を出ることになった場合、近隣の賃貸相場は2LDKで月8万~10万円程度でした。
「家賃だけで年金が消えてしまいます」と節子さんは話します。

 

また高齢者は賃貸契約を結ぶのも大変です。内閣府『令和7年版高齢社会白書』によると、65歳以上の住まいは「持ち家」が約83%を占めており、高齢期に新たに賃貸を探すこと自体が少数派です。また単身高齢者の入居は貸主から敬遠されやすいという壁があります。同白書では、65歳以上の半数近く(48.7%)が「自身の孤立死を身近に感じる」と答えています。貸す側が室内での万が一の事態を警戒するだけでなく、借りる側も一人暮らしへの不安を抱えており、こうした双方の懸念が物件探しのハードルを高くしているのです。

遺影に向かって叫んだ日

相続放棄の期限は迫っていました。亡くなったことを知ってから原則3カ月以内です。その間に家族は何度も話し合いました。

 

「借金なんか残して、どうしてこんなことになったの」

 

節子さんはある日、仏壇の前で泣きながらそう口にしたといいます。怒りもありました。しかしそれ以上に大きかったのは不安でした。70代を目前にした自分が、今の家を出なければならなくなるかもしれないという現実です。

 

美穂さんも悩み続けました。借金を引き継げば返済は不可能です。相続放棄すれば母の生活基盤が揺らぐ可能性があります。どちらを選んでも大きな代償がある――それが現実でした。

 

親の借金というと、多くの人は「相続放棄すれば済む」と考えます。実際、それが有効な場合も少なくありません。しかし、親が所有していた家に高齢の家族が住み続けているケースでは事情が変わります。負債だけでなく、住まいもまた相続財産だからです。

 

佐藤家の場合、最終的に相続放棄を選びました。決め手は、父の預金約120万円に対し、借金が約1,180万円にのぼっていたことです。

 

「家を守るために借金を背負っても、結局は生活が立ち行かなくなると思いました」

 

美穂さんはそう振り返ります。手続きを終えて半年後、自宅は債権者側による処分手続きに入り、節子さんは40年以上暮らした家を離れることになりました。現在は娘夫婦の住むマンション近くの賃貸住宅で一人暮らしをしています。

 

家賃は月7万8000円。年金収入の半分以上が住居費として消えます。

 

「借金はなくなりました。でも安心はできません」という節子さん。以前のように気軽に買い物へ行くことも少なくなりました。エアコンの使用時間を気にしたり、食費も切り詰めたりと、質素倹約を徹底しています。

 

「急に死んで、家族に迷惑をかけて……本当、なんて父親なんでしょう。まさか借金より先に家を失う心配をすることになるとは思いませんでした」