親の死後、遺品整理のなかで思いもよらない負債や契約が発覚するケースが少なくありません。家族が知らないまま積み上がった借金は、残された遺族の生活を大きく揺るがします。ある一家の事例を通して、「亡くなった親の借金」が家族にもたらす現実を見ていきます。
「なんてひどい父親だ!」亡父の書斎から見つかった「黒いノート」。〈年金月14万円〉62歳母と娘が知った、真面目な父の裏の顔 (※写真はイメージです/PIXTA)

「相続放棄すればいいと思っていました」

「借金があるなら、相続放棄ですよね。最初はそう思いました」

 

東京都内で働く佐藤美穂さん(38歳・仮名)。2025年の夏、父・佐藤和夫さん(享年71歳・仮名)が心不全で急逝しました。和夫さんは中小企業を定年退職後、妻の節子さん(62歳・仮名)と神奈川県内の戸建て住宅で暮らしていました。

 

家族から見れば堅実な父親。外食は少なく、旅行も年に一度程度。美穂さんは「お金に細かい人だった」という印象しか持っていなかったといいます。

 

ところが葬儀後の遺品整理で状況が一変します。書斎の鍵付き引き出しから、複数の消費者金融の契約書と督促通知が見つかったのです。残高を確認すると総額は約1180万円。借入先は7社に及んでいました。

 

「母と二人で何度も計算しました。見間違いじゃないかと思ったんです」

 

年金生活に入った後も借り入れは続いていました。一部は競馬やパチンコ関連の支出とみられる記録も残されていました。節子さんは言葉を失ったといいます。

 

「40年以上一緒に暮らしてきたのに、何も知りませんでした」

借金より深刻だった問題

借金の存在が判明した翌週、美穂さんは弁護士へ相談しました。答えは明快でした。

 

「相続放棄を検討したほうがいいでしょう」

 

負債が資産を大きく上回っていたためです。美穂さんは少し安心したといいます。借金を背負わずに済む――そう考えたからでした。しかし相談の最後、弁護士から別の説明を受けます。

 

「お母さまは今の家に住み続けられない可能性があります」

 

意味がわかりませんでした。

 

「借金を放棄するだけじゃないんですか?」

 

そう聞き返した美穂さんに、弁護士は父名義の登記簿を見せました。自宅は和夫さん単独名義でした。土地評価額は約1500万円。建物評価額は約300万円。相続放棄をすれば、家についても権利を主張できなくなります。債権者が競売を申し立てれば、処分対象になる可能性があるという説明でした。

 

「頭が真っ白になりました」

 

借金を捨てれば済むと思っていた問題が、突然「母の住む場所」の問題に変わったのです。