(※写真はイメージです/PIXTA)
生活困窮が招いた負のスパイラル
退院後、由紀子さんは兄の部屋を片付けることになりました。そこで見つかったのは、チラシの裏側に書かれた「怖い」の2文字。しかし、兄妹が疎遠になった理由は明確にありましたが、なぜ健一さんはあらゆる人と連絡を絶ってしまったのでしょうか。転機になったのは65歳での退職だったようです。
在職中は得意先との付き合いも多く、同僚とよく飲みに行くなど、交流があったそうです。ところが退職後、その関係は急速に途切れます。会社員時代の同僚との付き合いも最初の数年でなくなりました。
家計が厳しかったことも、孤立を深めました。たとえば、昔からの付き合いで飲みに行ったとすると、1回5,000円近くかかる。収入が年金だけの健一さんにとって、それはとてつもなく重い負担でした。次第に誘いを断る回数が増えると、今度は声がかからなくなりました。
スマートフォンの料金を抑えるため、大手キャリアから格安プランへ変更した際、連絡先の移行もうまくできず、古い知人の電話番号が消えたまま放置していたようです。
そして、体調が悪いにもかかわらず「もったいない」と医者にも行かず、食べ物もろくに食べず……とうとう動けなくなってしまったというのが今回の顛末でした。健一さんは「どうしたらいいのか、わからなかった」とポツリ。危険な状態の一歩手前でした。しかし、緊急連絡先として由紀子さんの家の番号を知らせていたことで、兄妹はまさかの再会を果たすことになったのです。
健一さんの部屋に残されていた「怖い」の2文字。それは死への恐怖、誰にも知られず消えていくことへの恐怖だったのかもしれません。発見があと数日遅れていたら、由紀子さんが兄と再会することはなかったでしょう。
10年以上会わなかった兄妹は、再び連絡を取るようになりました。