地方移住への関心はかつてないほど高まっています。公益社団法人「ふるさと回帰・移住交流推進機構」の発表によれば、2025年の移住相談件数は7万3,003件と、前年比18.3%増で5年連続の過去最多を更新しました。都市部の住宅価格高騰や物価上昇を背景に、「地方でゆったり暮らしたい」という需要は確実に広がっています。しかし、移住後の現実はそう単純ではないようです。※事例の人物名はすべて仮名です。
「ずっと庭付き一戸建てに憧れてた」…〈年金月17万円・退職金1,200万円〉で夢を叶えた67歳夫婦、地方移住2年で漏らした本音 (※写真はイメージです/PIXTA)

「退職金があれば買える」という計算

「ずっと庭付きの一戸建てに住んでみたかった」

 

夫・セイタさん(67歳)とナナさん(同い年)にとってそれは、長年の夢でした。結婚以来ずっと都内の賃貸マンション暮らしで、庭も縁側もない2LDKで子育てをしてきました。いつかは土と緑のある暮らしがしたい——その気持ちが、定年退職を機に動き出しました。

 

セイタさんは製造業の技術職として38年勤務し、65歳で退職。二人の年金は合わせて月17万円で、退職金は1,200万円です。

 

「都内では到底買えないが、地方なら戸建てが手に入る」

 

きっかけは、あるテレビ番組でした。地方の古民家を夫婦でリノベーションし、家庭菜園を楽しみながら暮らす様子が特集されていたのです。翌週末、二人はインターネットで物件を探し、300万〜600万円台で購入できる古民家がいくつもあることを知りました。「退職金1,200万円のうち900万円で家を買ってリフォームし、300万円を残しておけば十分だ」。セイタさんはノートに書いた計算をナナさんに見せました。

 

現地を2回訪れ、縁側から見える山並みと広い庭に心を奪われたナナさんは「ここにしたい」と即決。購入価格600万円の古民家を手に入れ、2年前に移住を完了しました。

退職金をほぼ使い切った理由

最初の誤算はリフォームです。地元の工務店に見積もりを依頼すると、当初予算の300万円で収まると思っていたところ、実際に工事を始めると屋根の補修と土台の腐食対応が必要と判明し、耐震補強も追加されました。結果的にリフォーム費用は600万円まで膨らみました。購入費と合わせて1,200万円——退職金をほぼ使い切ってしまったのです。

 

「古民家はふたを開けてみないとわからないことが多いと、あとから聞きました」とセイタさんは苦笑いします。

 

次の誤算は車でした。都内でずっと車を持たず暮らしてきた二人でしたが、移住先ではスーパーにも病院にも車がなければ行けません。セイタさんが1台購入し、送迎を一手に引き受けていました。しかしそれでは、セイタさんが出かけているあいだにナナさんがまったく動けなくなってしまいます。10年以上ペーパードライバーだったナナさんは、セイタさんを助手席に乗せて猛特訓を重ね、自分用の軽自動車をさらに40万円で購入しました。これは当初の計画に入っていなかった出費です。いまや2台の車の保険・ガソリン・車検・維持費で毎月4万円以上かかっています。

 

そして光熱費です。移住先の冬は都内とは比べものにならない寒さで、断熱性の低い古民家では灯油ストーブとエアコンをフル稼働させなければなりません。冬季の月の光熱費は3〜4万円に達し、都内に住んでいたときの倍以上になりました。

 

もう一点、夫婦が見落としていたのが、東京への交通費です。子どもが都内に住んでいるため、顔を見にいくにも往復二人で5万円近くの新幹線代がかかります。