高度経済成長期からバブル期にかけて人気を集めたニュータウン団地で、いま一斉高齢化による「オールドタウン化」が進んでいます。住民の高齢化、空き家の増加、商業機能の衰退が重なり、老後の暮らしを脅かすケースも少なくありません。かつて“夢の街”だった団地で暮らす80歳女性の現実を通して、見えにくい老後リスクを見ていきます。
「もう、誰もいない…」かつて抽選倍率の高かった「憧れの団地」の今。〈年金月14万円〉80歳母が怯える「孤独死7万人時代」の恐怖 (※写真はイメージです/PIXTA)

かつては憧れの街だった

「ここ、本当に人が住んでるの?」

 

久しぶりに母が一人で住む実家を訪れたとき、佐藤真由美さん(53歳・仮名)は思わず周囲を見回しました。駅からバスで20分。住宅不足が叫ばれた時代、山を削り作られた大型の住宅地です。真由美さんが子どものころ、この街は子育て世帯であふれていました。団地や戸建て住宅には同年代の家族が次々と入居し、商店街はいつも賑わっていました。当時は抽選倍率が高く、入居できたこと自体が一種のステータスだったといいます。


「隣も上も下も、みんな同級生。子ども時代は楽しい思い出しかありません」

 

しかし40年以上が経過した現在、街の様子は大きく変わっていました。

 

「隣も、上も下も、空いているの」

 

母の佐藤和子さん(80歳・仮名)。夫を8年前に亡くし、現在は一人暮らし。収入は亡夫の遺族年金と、自身の年金を合わせて月14万円ほど。家賃と共益費を合わせて月2万5,000円、光熱費は約1万5,000円。食費は2万円前後に抑えています。倹約を心掛けているので、年金だけで十分暮らすことができています。

 

それでも不安は年々大きくなっているといい、真由美さんは団地周辺を歩いてみました。以前あったスーパーは撤退していました。商店街はほぼシャッターが閉まっていて、唯一空いているのは、理髪店と郵便局だけ。診療所も数年前に閉院したそうです。

 

一方で、バスで20分ほどの最寄り駅前には新しいマンションが建設され、若い世帯の姿も見られます。街全体が衰退しているわけではなく、和子さんが暮らすエリアだけが取り残されている――という印象でした。

 

「バスも減ったしね。駅前に出るのに、時刻表を確認しないと大変よ。1時間くらい平気で待つんだから」

 

夕食の支度をしている最中、和子さんがぽつりと言いました。

 

「夜になると怖いのよ」

 

理由は「倒れても気づいてもらえないかもしれないから」とのこと。「外に出るとわかる」というので出てみると、納得でした。明かりがついているのは、和子さんの住む団地でいえば、30戸中10戸もありません。それだけ空室だということ。確かに、これでは倒れても誰も気づくことがありません。

 

かつて仲の良かった近所の友人たちは、施設へ入った人もいます。亡くなった人もいます。自治会の役員もなかなか決まりません。行事は次々になくなりました。変化は急激ではなかったものの、この5〜10年で一気に“街が年をとった”と和子さんは言います。高度成長期に整備されたニュータウンでは、同世代の住民がまとまって入居したケースが少なくありません。そのため高齢化も同時進行。人が一気に老け込むように、街も一気に老け込んだというわけです。

 

若い世代への住み替わりが進む地域もあります。

 

「駅に近いところでは団地が建て替えられて、若い人も引っ越してきているみたい」

 

一方で、住民構成の変化に地域再編が追いつかないエリアも存在します。和子さんの暮らす場所は後者でした。数年前、近所の高齢女性が自宅で倒れて亡くなっていたことがありました。発見まで数日かかったそうです。その出来事以来、和子さんは夜中に目が覚めることが増えました。

 

「私も同じようになるのかなって考えるの」

 

警察庁の発表によると、令和7年に自宅で亡くなった一人暮らしの人は年間7万6,941人。このうち65歳以上の高齢者が5万8,919人と全体の約76%を占めており、高齢化を背景とした「孤独死」の深刻さがうかがえます。また、死後2〜3日経過して発見されたケースが1万5,865件、4日以上経過したケースも2万件を超えており、誰にも気づかれずに亡くなる現状が浮き彫りになっています。