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母「もうお金はいらない」
東京都内の住宅設備会社に勤める山崎健一さん(56歳・仮名)は、地方の実家で1人で暮らす母の和子さん(78歳・仮名)に毎月5万円の仕送りをしていました。父は8年前に他界。自営業だったため、和子さんが受け取る年金は自身の基礎年金の月7万円だけ。
築45年の持ち家だったため家賃負担はありませんが、固定資産税や光熱費、食費を考えると、健一さんからの仕送りがなければ暮らしていけない……健一さんはそう考えて仕送りを続けてきました。
健一さん自身、経済的な余裕があるわけではありません。月収は55万円、手取りは約42万円ほどです。大学生の娘が1人おり、住宅ローンは残り1,200万円、毎月8万6,000円を返済しています。それでも、母の生活を支えるために捻出していました。
「母には最低限、不自由なく暮らしてほしかったんです」
和子さんからは毎月「今月も助かったよ」と、決まって電話がありました。しかし、異変が起きたのは昨年秋。ある日、和子さんから珍しく昼間に電話がかかってきました。
「健一、もうお金送らなくていいから」
突然のことに、健一さんは耳を疑います。
「どうしたの?」
「もう十分、お金はあるから」
和子さんはそう言って笑いました。しかし、その笑い方に違和感がありました。具体的な貯金額を聞いたことはありませんが、日ごろの暮らしぶりをみると、贅沢できるほどの余裕がないことは明らかでした。
「何かあったの?」
「大丈夫。本当にお金の心配はしなくていいから。あなたも色々と出費が重なった大変でしょ」
それ以上は話そうとせず、電話は数分で終わりました。その後も何度か連絡しましたが、和子さんは以前よりよく話すようになった反面、家計の話だけは避けるようになりました。
「最近、友達ができたの」
「毎日が忙しいのよ」
そう話す声は妙に弾んでいました。