近年、独身世帯の増加や少子化に伴い、高齢者施設に入居する際の「身元保証人」を親族で立てられないケースが増えています。また、保証人は立てられたとしても、子どもが遠方に住んでいたり仕事が忙しかったりして、いざというときに動けないという実態もあります。地方の介護付き有料老人ホームに入居しているサツキさん(75歳)と、都内で働く会社員の娘・ミホさん(51歳)も、そんな現実に直面した親子でした。そんな親子が利用した「身元保証代行業者」について、事例を通して解説します。※事例の人物名はすべて仮名です。
「通帳を閉じたまま、しばらく動けなくなりました…」老人ホームで暮らす75歳母の“身元保証代行”を契約した51歳娘の後悔。追い打ちをかける〈2026年の法改正〉の想定外 (※写真はイメージです/PIXTA)

身元保証代行の誤算

ミホさんが誤算だったのは、月会費とは別に発生する「スポット費用(実務手当て)」の積み重ねでした。

 

民間の身元保証代行業者の多くは、月会費を安く抑える代わりに、実際の動いた時間や案件に応じて追加料金を請求するシステムをとっています。サツキさんの足腰が弱り、外部の専門病院への定期受診や買い出しの頻度が増えるにつれて、その請求額は跳ね上がっていきました。

 

病院の付き添い:1回お願いすると、半日分の拘束代と交通費で約1万5,000円の請求。

日用品の差し入れ:ちょっとした買い出しを頼むだけでも、実費のほかに数千円の手数料が加算。

 

「最初は『たまに使うくらいなら』と思っていましたが、母の年金(月約15万円)だけでは毎月の基本料金とスポット費用の総額を賄えなくなっていきました。気がつけば、数百万円あった母の貯蓄口座の残高が、想定を上回る勢いで目減りしていたんです。こんなに引かれるの……?って、通帳を閉じたまま、しばらく動けなくなりました……」(ミホさん)

 

他人に動いてもらう以上、高い費用がかかるのは当然です。しかし、事前のシミュレーションが甘かったため、「親族でもない人に、日常の雑事でここまで高額なお金を払い続けていいのか」という疑問が、ミホさんの胸に去来するようになりました。

 

また、あとから「施設が提供している生活支援サービスのほうが、実は1時間あたりの付き添い費用が安かった」という事実を知ることになり、情報収集の甘さを痛感させられました。

預かり金流用のニュースと、法改正の足音

お金の負担以上にサツキさん親子を不安にさせたのは、民間身元保証業界の一部の「不透明さ」でした。ある日、テレビのニュースで高齢者の身元保証を行う民間業者が、利用者の預かり金を流用して破綻した事件が報じられました。サツキさんもミホさんもその報道を見て、一気に血の気が引いたと言います。

 

「初期費用として払った40万円は掛け捨てで戻らないと割り切っていましたが、最期(葬儀や死後事務)まで託すつもりで契約している会社が、本当に破綻せずに母を守ってくれるのか。急に怖くなってしまいました。消費者センターに問い合わせて過去のトラブルの有無を確認しようにも、契約したあとはもう引き返せません」(ミホさん)

 

さらに、国会では、身寄りのない高齢者や頼れる親族が遠方にいる人への日常生活支援・入院手続き・死後事務をサポートする事業を、より安全な「第二種社会福祉事業」に位置付けるための社会福祉法等の一部改正案が審議されています。厚生労働省の「社会福祉法等の一部を改正する法律案の概要 1」にも、

 

頼れる身寄りがいない高齢者等に対する日常生活・入院等の手続・死後事務の支援を行う事業を第二種社会福祉事業に位置付け、あわせて相談体制等の整備を図る。

 

とあります。今後は事業者に対して都道府県への届出が義務付けられ、行政が状況調査や業務停止命令を出せるようになるなど、法的な規制と適正化が進む見通しです。

 

「もう少し待てば、法改正によって行政の厳しいチェックが入ったクリアな事業者や、社会福祉協議会などが手がける確実な選択肢を比較検討できたかもしれないのに、焦って高額な一時金が必要な民間業者と契約してしまった……」という後悔を、少なからず抱くこととなりました。

契約前に知っておくべき「線引き」と防衛策

身元保証代行業者への依頼は、遠方の家族や家族のいない当人にとって心強い存在になる一方で、利用の仕方を誤ると老後資金を急速に食いつぶすことにもなり得ます。民間企業を利用する場合、公的機関にはない柔軟なサービスや、空き家管理、細やかな差し入れといったプライベートな要望にも応えてくれるという、ほかには代えがたいメリットがあります。夜間や緊急時のスピード対応は、民間ならではの強みです。

 

しかし、その利便性に甘えすぎて日常の細かな雑事まですべてを依存してしまうと、従量課金による高額な費用が積み重なり、老後の財政基盤を揺るがすことになります。民間業者を利用する際は、「身元保証」や「緊急時の対応」など、どうしても親族や施設だけではカバーできない法的・公的な業務のみを業者に絞り、オムツの買い出しや日常の付き添いは、より割安な施設のサービスや介護保険の枠内で行うといった「線引き」が不可欠です。

 

今後は社会福祉法の改正により、社会福祉協議会などを通じた公的な選択肢も増えていくことが予想されます。焦って目の前の民間業者にすべてを委ねるのではなく、定額費用だけでなく将来的な追加費用のシミュレーションを事前に行い、親の資産状況と照らし合わせながら、民間ならではの手厚さと公的な安心感を天秤にかけて使い分ける視点が、現代のシニア世代とその家族に求められています。

 

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