離れて暮らしていた親子が、親の高齢化を機に同居を始める——。その選択は、愛情や責任感から生まれるものです。ところが、長く別々に暮らした分だけ、互いの「当たり前」は違っています。食事のこだわり、お金の使い方、他人への拒絶……。固まった生活スタイルと、それを受け止める負担は、3年という時間をかけてゆっくり限界に近づいていきました。※事例の人物名はすべて仮名です。
「お母さんとは無理です」…年金月14万円79歳母との同居、51歳一人娘が〈3年〉で限界を迎えたワケ (※写真はイメージです/PIXTA)

見えにくいコストと、介護離職の現実

総務省「令和6年全国家計構造調査」(2025年12月公表)によると、75歳以上の単身無職世帯の実収入は月平均15万5,129円で、そのうち公的年金などの社会保障給付は14万1,100円です。コハルさんの年金月14万円は、この水準にほぼ合致します。単身の場合はこの収入でなんとか生活が回る設計ですが、ひとたび同居となると生活費の構造は大きく変わります。さらに、コハルさんのような「こだわり」が加わると、食費・交通費・その他の出費が静かにふくらみ、それを埋めるのは往々にして同居する子世代です。

 

ミクさんのように介護離職を迫られる状況に置かれている人がどれほどいるのでしょうか。総務省「令和4年就業構造基本調査」によれば、家族の介護を理由に離職・転職した人は年間約10万6,000人にのぼります。そのうち40〜50代が約7割を占め、働き盛りの世代が最も大きな影響を受けています。さらに深刻なのは、介護サービスを利用せずに家族だけで抱え込むケースです。コハルさんのように「他人を家に入れたくない」「自宅から離れたくない」と介護保険サービスを拒否する高齢者は少なくなく、本来なら活用できるサービスが使えないまま、子世代が仕事と介護の板挟みになっていきます。

 

公益財団法人生命保険文化センターの「生活保障に関する調査」(2025年度)では、老後生活に不安を感じている人は83.2%。不安の最大の理由は「公的年金だけでは不十分」(79.8%)でした。現役世代は自分の老後を心配しながら、親の介護も担う。その二重の重圧が、気づかないうちに家計と人生設計を蝕んでいきます。

「善意の同居」を守るために

ミクさんがケアマネジャーに相談した結果、出た結論は「いったん別居する」でした。ミクさんが元の住まいに戻り、コハルさんはヘルパーと訪問看護を組み合わせた在宅ケア体制に移行する計画です。コハルさんは最初こそ抵抗しましたが、「ミクさんが倒れたら元も子もない」というケアマネジャーの言葉が、少しずつ届きはじめています。

 

「お母さんのことが嫌いになったわけじゃない」とミクさんは言います。「ただ、私の人生もあるから」。

 

同居介護で最も見落とされがちなのは、「善意だけでは続かない」という現実です。子世代の収入・貯蓄・精神的余裕が底をついたとき、最も困るのは当の高齢者自身です。介護保険サービスをうまく活用し、専門家と連携しながら「無理のない距離感」を保つこと。それが結果として、親子関係を長く守る道につながります。同居を検討する際には、費用負担・家事ルール・介護サービスの利用について、事前に話し合っておくことが不可欠です。

 

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