「子や孫のためなら」と、際限なく援助する高齢者は少なくありません。しかし近年は物価上昇や医療費負担の増加により、老後資金の見通しが大きく変わってしまうケースも目立っています。孫の将来を思って多額の留学費用を支援した72歳男性もそのひとり。教育支援と老後資金のバランスをめぐる、現代ならではの難しい問題をみていきます。
孫「海外留学したい」に〈貯金4,000万円〉からポンと援助した70歳元教員男性。5年後、「自分の医療費が足りない…」の末路

海外留学を諦める孫に「じいちゃんに任せておけ」

地方都市で暮らす元高校教員の佐伯徹さん(当時70歳・仮名)。妻を3年前に亡くし、現在は一人暮らし。現役時代は堅実な生活を続け、退職金をほぼ残しながら、預貯金は約4,000万円まで積み上がっていました。

 

年金収入は月22万円ほど。持ち家で住宅ローンはありません。毎月の生活費は15万円前後で、本人は「贅沢をしなければ十分暮らしていける」と考えていました。

 

転機は、長男家族との食事会。大学2年生になる孫(徹さんにとっては初孫)が、大学を休学し、海外留学をしたいと言い出したのです。希望する留学先は欧州の大学。学費や滞在費を含めると、総額は700万円を超えるといいます。

 

「本当は挑戦したい。でも調べれば調べるほど、無理だなって……だって、高いんだもの」

 

長男は黙ってしまいました。その様子を見た佐伯さんは胸がざわついたと振り返ります。教員時代、自分は何度も生徒たちに「挑戦することの大切さ」を説いてきました。孫にだけ諦めろとは言えなかったのです。

 

さらに心の奥には別の感情もありました。長男は会社員ですが、住宅ローンや教育費の負担が重く、家計に余裕はありませんでした。

 

「父親のせいで留学できなかったと思ってほしくなかった」

 

そのような思いが、佐伯さんの背中を押しました。

 

「じいちゃんに任せろ。せっかくの機会なんだから」

 

海外留学費のうち、約500万円の援助を約束しました。長男夫婦も、孫も驚きながらも感謝を口にしたといいます。佐伯さんは誇らしい気持ちでいっぱいでした。

 

内閣府『令和6年度 高齢社会対策総合調査(高齢者の経済生活に関する調査)』によると、高齢者が今後優先的にお金を使いたいと考えているものとして、「子や孫のための支出(学費、こづかい等)」を挙げた人は25.8%に上ります。自身の老後資金を次世代の支援や投資に充てようと考えるシニアは、決して少数派ではないことがわかります。