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NISAでの「成功体験」が狂わせた金銭感覚
伊藤健一さん(65歳・仮名)は、都内の中堅メーカーに勤め上げ、昨年定年退職を迎えました。住宅ローンはすでに完済しており、妻の由美さん(62歳・仮名)と2人で受け取る予定の年金は月額約25万円(手取り月22~23万円)でした。
夫婦の現在の生活費は月25万円ほど。年金手取り額を考えると、毎月2万~3万円程度の赤字が出る想定です。しかし、老後を見据えた貯金のほか、健一さんの退職金約2,500万円があるため、多大な心配をする必要はないと考えていました。
そんな健一さんには定年退職の1年前から始めている「秘密の楽しみ」がありました。それが新NISAです。健一さんは新NISA口座を開設し、年間の投資枠をほぼ使い切る形で、ネット上で人気を集めていた海外株式型の投資信託へ資金を投じました。世界経済の成長に幅広く投資できるという説明に魅力を感じ、「これなら初心者の自分でも安心だろう」と考えていたのです。
折しも健一さんが投資を始めた時期は、世界的な株高と円安が続く追い風の相場でした。NISAで投資した資金はみるみるうちに増え、360万円ほどだった評価額は1年後には400万円近くになっていました。
「銀行に預けていても増えないのに、投資ならこんなに増えるのか」
健一さんは次第にそう考えるようになりました。しかし、このときの成功体験は、上昇相場という恵まれた環境による部分も大きかったのです。健一さん自身は、そのことに気づいていませんでした。
退職金2,500万円を「特定口座」も使って全振り
昨年春、無事に定年を迎えた健一さんの口座に、退職金2,500万円が振り込まれました。NISAでの成功体験から、「現金のまま持っていても資産は増えない」という考えが強くなっていた健一さん。退職金を受け取る頃には、「できるだけ多くを投資に回したほうが老後は豊かになる」と信じるようになっていました。
「2年目のNISA枠だけでは足りない。どうせ同じ投資信託を買うなら、退職金もまとめて運用したほうがいい。長期投資は早く始めるほど有利だと聞くし、現金のまま置いておくほうがもったいない」
健一さんは由美さんに「NISAでもちゃんと結果が出ている。世界中に分散投資しているんだから、そう簡単に失敗することはないよ」と豪語。由美さんも、実際に増えている画面を見せられたため、「あなたがいいと言うなら」と深く追及せずに黙認してしまいました。
こうして伊藤家は、老後資金の生命線である退職金2,500万円を、同じ海外株式型の投資信託へ一気に全額つぎ込んだのです。