会社員のなかには、「自分1人の力を試したい」と、独立・起業を志す人も少なくないでしょう。しかし、そこには現役時代には見えなかった公的年金の落とし穴が潜んでいます。突然の不幸によって、信じていた老後設計が根底から覆されたある女性の事例をみていきましょう。
「遺族年金なんて、当てにするんじゃなかった…」突然死した67歳夫が隠していた秘密に、62歳妻「後悔しかありません」と語る残酷理由 (※写真はイメージです/PIXTA)

年金事務所で知った遺族年金の冷酷な現実

さらに美智子さんを絶望の底へ突き落としたのが、遺族年金の手続きのために訪れた年金事務所での面談でした。

 

美智子さんは、博さんがかつて大手企業の正社員として働いていたことから、自分が遺族となった場合でも、遺族厚生年金として毎月少なくとも10万~12万円程度は受給できるものと思い込んでいました。


「遺族年金を受け取っているという人から、毎月それくらいもらっていると聞いていたので」

 

自身が65歳から受け取る老齢基礎年金と合わせれば、贅沢をしなければ1人で十分に暮らしていけるという計算もありました。しかし、窓口の担当者が提示した遺族厚生年金の支給見込額は、月額5万円弱という、耳を疑うような数字でした。

 

「担当者の方から『ご主人の厚生年金の加入期間が、一般的な会社員の方と比べて短いですね』と言われた時、ハッとしました。当たり前ですよね、独立してからは、ずっと国民年金だけでしたから」

 

公的年金制度において、遺族厚生年金は死亡した人の厚生年金の加入履歴(報酬比例部分)をベースに計算されます。

 

厚生労働省『厚生年金保険・国民年金事業年報』によると、民間企業に長く勤めた夫を亡くした妻が受け取る遺族厚生年金の平均受給額は月額約8万円台。しかし博さんのように、40代前半で会社を辞めて厚生年金から脱退した場合、仮にそれまでの給与水準が大卒サラリーマンの平均だとすると、簡易的な計算ではありますが、月4.1万円程度になります。

 

さらに追い打ちをかけたのが、「中高齢寡婦加算」の不支給でした。

 

これは、夫が死亡した当時に40歳以上65歳未満の妻に対し、妻自身の年金が支給されるまでの間、年額635,500円(令和8年度)が加算される制度。しかし、この加算を受けるためには「夫の厚生年金加入期間が原則として20年以上あること」という要件が存在します。

 

博さんの会社員期間は18年。わずか2年足りなかったために、美智子さんはこの加算を1円も受け取ることができないという現実を突きつけられました。

老後破産の足音が迫る62歳妻の困窮

「遺族年金なんて、当てにするんじゃなかった……。主人の『俺に任せておけ』という言葉を真に受けて、自分の老後の準備をまったくしていなかったことが、今となっては後悔しかありません」

 

美智子さんが現在、毎月手にすることができる確実な収入は、自身のパート代6万円と、夫の遺族厚生年金5万円を合わせた、11万円ほど。ここから、毎月確実に引かれるマンションの管理費と修繕積立金を支払うと、残り9万円。そこから水道光熱費や通信費などの固定費や、食費などの生活費を払うと、残り僅か。博さんが遺した消費者金融への借金返済が重くのしかかります。

 

総務省『家計調査 家計調査編(2025年平均)』によると、60歳以上の単身女性における1カ月の平均的な消費支出は約15.6万円。美智子さんの場合、月11万円の収入からマンションの管理費等を差し引いた残り約9万円で日々の生活費をやり繰りし、さらに夫が遺した多額の借金まで返済しなければなりません。住居費の負担が少ないとはいえ、平均的な生活費水準を大きく下回る極度の節約が求められ、老後破産の危機に直面している非常に過酷な状況といえます。

 

現在62歳の美智子さんにとって、自分自身の老齢基礎年金が受給できる65歳までは、あと3年あります。パートのシフトを増やして収入を上げようにも、長年の専業主婦生活から体力が追いつかず、年齢の壁もあってこれ以上の条件の職を見つけることは困難だといいます。

 

「結婚して以来、主人はずっと『俺に任せておけ』といってくれる、頼りがいのある人でした。私はそんな夫に完全に甘えていた。もっと1人残されたときのことを真剣に考えていたらと、今は後悔しかありません」