内閣府「令和7年版高齢社会白書」によると、老後の備えとして「財産等の整理・相続の準備」を含む「終活関係の準備」が必要だと考える60歳以上の人は約4割(38.1%)に上ります。しかし、実際に財産を次世代へ譲る際、渡す側の「よかれと思って」の行動が、受け取る側との価値観のズレにより、思わぬ家族トラブルに発展することも……。事例をご紹介します。※事例の人物名はすべて仮名です。
「おばあちゃんのことは呼んでない…」一人だけ孫の結婚式に招待されなかった〈資産8,000万円の81歳祖母〉、悪気ない孫差別の末路 (※写真はイメージです/PIXTA)

届かない招待状

それから数年が経ち、ミノリさんは人生の伴侶と出会い、結婚式を挙げることになりました。

 

親族間で結婚式の準備の話題が持ち上がるようになっても、カズサさんのもとには一向に招待状が届きません。「式はいつなの?」「着物はどうすればいい?」とカズサさんがミノリさんの親に尋ねても、返ってくるのはどこか歯切れの悪い言葉ばかりでした。

 

「あー、まだ席順の調整がついていなくて」「向こうの親戚との兼ね合いで、ちょっとバタバタしてるんだよね」

 

カズサさんは「身内の席くらい、すぐに決まるでしょ!」と何度も催促しましたが、娘夫婦は「またわかったら連絡するから」と話を濁し続けました。そして結局、具体的な日時や場所を一切教えられないまま、式の季節が過ぎていきました。

板挟みの末に選ばれた「排除」

ある日、カズサさんは他県に住む親戚と会うことに。その際、見せられたのは、都内のホテルで執り行われたという、ミノリさんの華やかな結婚式の写真でした。

 

「席が足りない」はずの会場には、他の叔父や叔母、その子どもたちまで、親族が漏れなく笑顔で写っています。呼ばれていないのは、本当に自分一人だけでした。

 

裏切られた怒りと屈辱に震えながら、カズサさんはすぐに実の娘(ミノリさんの母親)の携帯を鳴らしました。受話器越しに激しく問い詰めるカズサさんに対し、娘はひたすら気まずそうに、本音を漏らしました。

 

「でもさ、ミノリの意志が本当に固くて、どうしても『おばあちゃんを呼ぶなら式は挙げない』って譲らなかったのよ。ミノリ自身もお相手も高給取りだし、援助は必要ない、自分たちの力で式を挙げるっていうし。お母さん、昔から、あの子より息子(カズサさんの孫息子)のことばかり可愛がってたじゃない? あの子の式だから、あの子の気持ちを無視するわけにはいかなくて……」

 

カズサさんは激しい困惑のなかで、湧き上がる怒りを必死で抑えるほかありませんでした。

 

「だからって、こんな形で仕返し? 祖母なのに、こんなに恥ずかしいことはない……。私はあのとき、孫息子の学費でお金が必要だと思ったから融通しただけで、差別したわけじゃないのに。どうしてそんな風に受け止めるの……」

 

ミノリさんが祖母を拒絶した本質は、やはり金銭的な損得勘定ではないでしょう。どれだけ学業を頑張っても、どれだけ良い子にしていても、常に弟の後回しにされ、日常の端々で「女の子だから」と片付けられてきたこれまでの記憶。その積み重ねが、彼女を頑なな拒絶へと走らせたのかもしれません。

 

手元には、使い切れないほどの8,000万円という大金と、毎月振り込まれる年金があります。しかし、自らの無自覚な偏見によって家族の信頼を失った彼女の周りには、誰も寄り添おうとはしません。お金で買える不自由のない暮らしに囲まれながらも、誰からも必要とされない寂しさに包まれる老後となってしまったようです。

 

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