38年間会社に捧げ、ようやく迎えた定年退職。3,500万円の退職金通知を妻へ見せた翌朝、夫の前に置かれたのは1冊のノートでした。そこに書かれていたのは、退職金をきれいに2等分した計算式。結婚34年目、妻が突き付けた「想定外の要求」と、定年を機に激変した熟年夫婦のリアルな選択に迫ります。
「退職金は3,500万円でした」「おつかれさま。では半分いただきます」…定年退職の60歳夫、結婚34年の妻から突き付けられた「想定外の要求」 (※写真はイメージです/PIXTA)

互いの自立から始まった「新しい夫婦の日常」

卒婚生活が始まって数ヵ月が経過し、加藤さんの生活は現役時代から一変しました。

 

「家事は今も苦戦中です。要領が分からず、妻の大変さを痛感する日々でした」

 

加藤さんが家事に苦戦するのは無理もないことかもしれません。国立社会保障・人口問題研究所『第7回全国家庭動向調査』によると、妻が50~59歳の世帯において、夫の1日の平均家事時間は平日でわずか39分、休日でも64分にとどまります。一方、同年代の妻は平日241分、休日276分もの時間を家事に費やしており、夫婦間で圧倒的な差が存在しています。

 

加藤さんのように現役時代を仕事に捧げ、家さを妻に任せきりだった男性にとって、退職後に突然自立して家事をこなすのは極めてハードルが高いと言わざるを得ません。

 

しかし、加藤さんの表情に暗さはなく、むしろどこか生き生きとした様子を見せます。自分でメニューを考えて料理を作ることや、自分のペースで時間を管理することに、新鮮なやりがいを感じ始めているといいます。由香里さんも自身の趣味や友人との時間を謳歌しており、同じ家の中にいながら、互いに適度な距離感を保って活動しています。

 

「今はお互いのスケジュールに干渉しません。それでも、夕食後にリビングでそれぞれ別の本を読みながら、たまに『今日こんなことがあってね』と雑談を交わす時間が心地よいのです。義務感で一緒にいたころよりも、今の関係の方がお互いを一人の人間として尊重できている実感があります」