かつて憧れだった、広い庭付きの戸建てが並ぶ、郊外のニュータウン。しかし時代の変化とともに利便性を失い、「限界ニュータウン」と化するケースも珍しくありません。そして、そこに取り残されているのは、古くからの住民である高齢者たち。なぜ不便な環境だと分かっていながら、そこに居続けるのか。月14万円の年金で暮らす78歳女性の事例とともに、“住み替えの壁”について考えます。
「もう、無理なの…」最寄り駅までバス30分、隣近所は高齢者ばかり…〈年金月14万円〉78歳おひとり様女性、限界ニュータウンに留まる残酷理由 (※写真はイメージです/PIXTA)

不動産価値の下落と、賃貸住宅への「入居拒否問題」

さらに、住み替えを阻むのは体力的な問題だけではありません。経済的な壁も存在します。限界ニュータウンと呼ばれる地域の不動産価値は、購入時と比べて大きく下落しているのが実情です。


「近所の家が売りに出されたとき、買い手がつかずに最終的に数百万円まで値下がりしたと聞きました。うちを売却したところで、次の住まいの購入資金や賃貸の初期費用には到底足りません」

 

高橋さんが受け取る年金は月14万円ほど。毎月の食費や光熱費、固定資産税を見据えての貯金などで、手元にはほとんど残りません。そのような経済状況のなか、持ち家だろうと賃貸であろうと、さらなる出費が重なることにはどうしても消極的にならざるを得ないのです。

 

また、高齢者が民間の賃貸住宅へ入居しようとする際、収入や健康面の懸念から保証会社の審査が通りにくくなる、いわゆる「高齢者の入居拒否問題」も深刻です。経済的な余力が潤沢にない限り、郊外の古い戸建てを処分して都市部へ住み替えることは、想像以上に高いハードルと言えます。


「ここにいれば家賃はかかりません。建物が古くなって修繕の心配はありますが、最悪、雨風がしのげたら、それでいい。私には住み続けるしか選択肢がないんです」

「動きたくても動けない」シニア世代が直面する切実な課題

現在、高橋さんは週に1回、近くにやってくる移動販売車で日用品や食材を調達することがほとんど。体調を崩した際は、車で40分かかる病院へ通うため、タクシー代を支払わざるを得ません。月14万円の年金のなかで、これらの交通費や維持費をやりくりすることは容易ではありません。

 

利便性が低下し、コミュニティも縮小していく限界ニュータウン。そこには、過去の選択を悔やむのではなく、加齢による体力の低下と経済的な制約によって「動きたくても動けない」という状況にある高齢者の現実があります。

 

かつて購入したマイホームが、人生の最終盤において移動や住み替えの障壁となってしまう――このような現実を前に、現役世代は「老後の住処」を早い段階から見据え、資産価値や利便性の変化を想定した中長期的なライフプランを立てておくことが、リスク回避の重要な鍵と言えます。