かつて憧れだった、広い庭付きの戸建てが並ぶ、郊外のニュータウン。しかし時代の変化とともに利便性を失い、「限界ニュータウン」と化するケースも珍しくありません。そして、そこに取り残されているのは、古くからの住民である高齢者たち。なぜ不便な環境だと分かっていながら、そこに居続けるのか。月14万円の年金で暮らす78歳女性の事例とともに、“住み替えの壁”について考えます。
「もう、無理なの…」最寄り駅までバス30分、隣近所は高齢者ばかり…〈年金月14万円〉78歳おひとり様女性、限界ニュータウンに留まる残酷理由 (※写真はイメージです/PIXTA)

住民の高齢化が進む「限界ニュータウン」の現実

高度経済成長期からバブル期にかけて、都市部へ通勤するファミリー層の受け皿として全国各地に開発された大型ニュータウン。当時は利便性の高い先進的な街として人気を集めていましたが、数十年が経過した現在、インフラの老朽化や住民の急速な高齢化が問題となっています。

 

首都圏郊外にあるニュータウンの一角に暮らす、高橋和子さん(78歳・仮名)も、このいわゆる「限界ニュータウン」で生活を続ける一人です。


「主人が亡くなってから5年になります。静かな場所ですが、気がつけば周りは一気に寂しくなってしまいました」

 

高橋さんが暮らす物件は、最寄りのJRの駅からバスで約30分かかります。かつては10〜15分間隔で運行していたバスも、現在は日中1時間に1本もないほどに減便されました。若い世代は街を出ていき、かつて賑やかだった隣近所は今や高齢者世帯か空き家ばかりとなっています。

高齢期の住み替えを阻む壁

ニュータウンに活気があったころ、駅からバスで30分の高橋さん宅の近くには商店街があり、日用品は徒歩圏内で揃えることができました。しかし今はすべての商店が閉店してしまい、かつて賑やかな商店街があったことも思い出せないくらいになっています。

 

日用品であっても、わざわざバスに乗って駅前に出なければいけなくなっている現状を鑑みると、駅近くのマンションなどへ住み替えるほうが生活の利便性は向上します。しかし、高橋さんはこの場所に留まり続けています。


「もう少し若ければ引っ越す気力もあったかもしれません。でも、主人が亡くなったときはすでに73歳でした。手続きだけで精一杯で、家を売って新しい場所を探すなんてエネルギーは残っていませんでした」

 

内閣府『令和5年度高齢社会対策総合調査(高齢者の住宅と生活環境に関する調査)』によると、住み替えの意向が「ある」と答えた割合は、60〜64歳の9.9%から、70〜74歳で5.3%、80〜84歳では2.9%へと、加齢とともに明確に低下しています。「将来的に検討したい」を含めた意向を持つ割合で見ても、60代前半の40.9%から、75〜79歳で27.4%、85歳以上では18.4%へと大きく落ち込みます。

 

反対に、住み替えの意向が「ない」と答えた人は、60〜64歳の59.2%から85歳以上の81.7%へと増加。このように、加齢に伴う気力や体力の低下が、住み替えを阻む大きな壁となっているのです。