(※写真はイメージです/PIXTA)
結婚後の新たな不安
今年、入籍したAさん。相手は同い年で、同じく奨学金の返済が続いていて、2人の返済額を合わせると、月3万円を超える。
「夫とは、子どもを持つなら、できれば奨学金を返してからにしたいよね、とい話しています。でも、じゃあ早く返せる見通しがあるかというと、正直それは……。来年に挙げる予定の結婚式もシンプルにしようと決めました。お互い奨学金があることはわかったうえで付き合っていたので、責め合うことはないんですけど、2人合わせるとこれだけ負担があるんだ、という現実を感じます」
Aさんの姉もまだ返済中だ。同世代の女性たちが似たような状況に置かれているという話を、姉やかつての同期から聞くことがある。
「奨学金を借りて、なりたい仕事に就いて、結婚して……普通に生活していけるもんだと思っていました。借りるときは、こんなに将来設計に影響するとは考えていなかったです。借りる前、父が言ったことの本当の意味がいまになってわかりました」
父は『ちゃんと返せるなら』と言っていた。その一言を、当時のAさんは「普通に就職して働けば、当然に返せるはずだ」と深く考えずに受け止めていた。周囲の友人もみんな借りているのだから、社会人になればなんとかなるだろう――。そう信じて疑わなかったからこそ、具体的な返済額を試算することもしなかったのだ。
しかし、いざ社会に出てみると、日々の生活を維持しながら何年、何十年とお金を返し続けることは、決して「当然」にこなせるような簡単なことではなかった。結婚や出産という人生の節目を迎えて初めて、父の一言が、社会のリアルな厳しさを見抜いていたのかを、Aさんは身に染みて感じている。
老後の貯蓄や、いつか子どもを育てることを考えると、いまの収入と返済の組み合わせでは先が見通せない。返済が終わるころには30代半ばになっている。「そのころにようやく“普通の家計”が始まるんです」とAさんは俯く。
「なりたい仕事に就いたのに返せない」という矛盾
Aさんは、目的を持って奨学金を借り、資格を取り、専門職として働いている。それでも返済は重い。背景にあるのは、福祉や医療など“社会を支える仕事”の賃金水準の低さだ。
Aさんの手取りは月21万円前後で、そこから家賃や生活費に加え、毎月1万8,000円の奨学金返済が発生する。厚生労働省「令和6年賃金構造基本統計調査」によると、医療ソーシャルワーカーを含む「その他の社会福祉専門職業従事者」の推計年収は、男女計の全体平均で約441万円、女性平均では約423万円となっている。
これは平均年齢45歳・勤続10年超のベテラン層を含む数字であり、26歳・社会人3年目のAさんの年収320万円は、若手としてみれば珍しい水準ではない。
福祉、医療、保育、教育——こうした分野は、人手不足や社会的重要性が繰り返し指摘されてきた一方で、若手の給与水準は決して高いとはいえない。「人の役に立ちたい」という思いで奨学金を借り、専門性を身につけた若者へ、思い返済負担がのしかかるのが当然なのだろうか。
社会に必要とされる仕事に就きながら、その仕事を続けることで生活が苦しくなっていく——。Aさんの葛藤は、決して特別なものではない。
大野 順也
アクティブアンドカンパニー 代表取締役社長
奨学金バンク創設者
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