警察庁「令和8年3月末における特殊詐欺の認知・検挙状況等について」によれば、特殊詐欺の被害額は約937.9億円(前年同期比79.0%増)にまで膨れ上がっています。なかでも警察庁が今年から独立した手口として位置付け、警戒を強めているのが「ニセ警察詐欺」です。今回は、月11万円の年金暮らしをしながら、4,000万円ものタンス預金を所持していた74歳女性の事例を紹介します。※紹介する事例の人物名はすべて仮名です。
誰にも言ってなかったのに…年金11万円・74歳母が隠し持っていた「タンス預金4,000万円」が「詐欺師」に見つかったワケ (※写真はイメージです/PIXTA)

巧妙に張り巡らされていた3つの罠

なぜ、誰にも話していないタンス預金が、詐欺師にバレていたのでしょう。答えは、日常に潜む「不審な電話(アポ電)」にありました。

 

国民生活センターの報告によると、近年の特殊詐欺や強盗グループは、事前に公的機関や実在する企業を名乗って電話をかけ、ターゲットの家族構成や資産状況を巧みに聞き出しています。トウコさんも、日々の生活のなかで気付かぬうちに情報を渡してしまっていたのです。

 

1.テレビ局や調査会社を騙る「資産状況のアンケート」

半年前、トウコさんの自宅に「テレビ局の番組制作会社」を名乗る人物から電話がありました。「高齢者の生活実態調査を行っています。お宅の資産や貯蓄額は500万円以上ですか?」といった唐突な質問に対し、トウコさんは無下に電話を切ることもできず「ええ、まあ……」と曖昧に答えてしまっていました。実はこのような電話こそが、犯罪グループが「高額な資産を隠し持っている家」をリストアップするための巧妙な罠だったのです。

 

2.消防署を騙る「独居世帯の確認」

1年前、地元の消防署員を名乗る者から電話がかかってきました。「災害時にすぐ救助に向かえるよう、一人暮らしの方の確認をしています。お一人暮らしですか?」と聞かれ、トウコさんは「はい、そうです」と素直に答えていました。相手を信用させる手口によって、詐欺グループのリストには「高齢の独居世帯」という、犯罪者にとって最も狙いやすい条件が書き加えられていたのです。

 

3.市役所職員を騙る「還付金手続きと口座情報の探り」 

さらに、市役所の職員を名乗る者から「医療費の還付金があります。手続きをするので、対象になるかどうかの判断基準として取引銀行を教えてほしい」という電話がかかってきたこともありました。このように、公的な手続きを装って言葉巧みに誘導し、銀行口座の有無や、「家にどれくらい現金を置いているか(タンス預金があるか)」を探る手口も、犯罪グループによる典型的な下調べだったのです。

日常の「連絡ルーティン」がもたらした奇跡

トウコさんがパニック状態で4,000万円をバッグに詰め終え、怯えながらソファーで男の到着を待っていると、手元のスマートフォンが震えました。画面に表示されたのは息子の名前。トウコさんは恐怖のなか、通話ボタンを押します。

 

「大変なの、いまから警察の人が家に来るの!」

 

母の尋常ではない怯え方に、シンジさんは即座に異変を察知します。

 

「警察って? なにがあったの?」

 

トウコさんが一連の経緯を早口でまくし立てると、シンジさんの脳裏に、ニュースで見た特殊詐欺のニュースがよぎります。

 

「落ち着いて聞いて。それ、絶対に詐欺だから。警察が家にお金を回収しに来るなんて絶対にない。誰が来てもドアを開けちゃダメだ!」シンジさんはそう叫ぶと、母に電話を切らないよう指示し、妻のスマホからすぐさま110番通報を入れました。

 

そして、トウコさんの敷地内に不審な男が入ったところで、シンジさんの通報を受けて急行した最寄りの交番の警察官がやってきました。警察官に声をかけられた男からは、のちに所持品から偽の身分証などが発見され、詐欺未遂の容疑で身柄が確保されました。

家族とのコミュニケーションの重要性

地元の警察署から連絡を受けたシンジさんは、安堵の息を漏らすと同時に、刑事から語られた全貌に言葉を失いました。母が生活に困窮しているどころか、4,000万円もの資産を持っていたこと。そして、それが今日、危うくすべて騙し取られてこの世から消えるところだったこと――。急遽実家へと駆けつけ、ショックから立ち直れない母に、シンジさんは問いかけました。

 

「お母さん、お金なんてないって言ってたじゃないか。なんでそんな大金を家に置いてたんだよ」

 

「……。私が倒れても、あのお金があれば、あなたを頼らずに済むからって……」

 

息子に金銭的な負担を背負わせたくない、最期まで自立した親でいたいという、トウコさんの親心。しかし、誰の手も経ずにひっそりと自宅で守ろうとしたことで、社会の防波堤を失わせ、犯罪グループにとってこれ以上ない標的を創り出していました。

 

このようにアポ電で資産状況や独居であることがバレた家は、単なる詐欺にとどまらず、近年広域で発生しているSNSで実行犯を募集する手口による「侵入強盗(住宅強盗)」の直接的な標的にされる危険性が非常に高まります。この深刻な事態に対し、警察庁がウェブサイトに開設している防犯ポータルサイト「住まいる防犯110番」では、侵入犯罪対策の広報啓発を強く推進しています。

 

同サイトでは、万が一犯罪グループに目を付けられ自宅への侵入を企てられた場合に備え、侵入までに5分以上の時間を要するなど一定の防犯性能があると評価された「防犯性能の高い建物部品(CP部品)」を導入し、物理的な防犯対策を強化することを推奨しています。

 

トウコさんの事件は間一髪で防げましたが、日常の不審な電話(アポ電)を遮断することに加え、「住まいる防犯110番」が推奨するようなCP部品を活用して自宅の守りを固めることが、現代の凶悪な犯罪から親の命と財産を守るための切実な防衛策となるのです。また、もしお金をはじめから銀行に預けていれば、このような危険な目に遭うことすらありませんでした。大切な資産と親の命を守るためには、家族間で資産の状況をオープンに共有することで、現代の巧妙な詐欺から親の未来を守るための、切実な防衛策となり得るでしょう。

 

〈参照〉

国民生活センター:その電話、「アポ電」かも-知らない番号からの電話に出るのは慎重に-

https://www.kokusen.go.jp/news/data/n-20190318_1.html

警察庁:生活安全の確保と犯罪捜査活動

https://www.npa.go.jp/hakusyo/r05/pdf/05_dai2sho.pdf

 

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