(※写真はイメージです/PIXTA)
月11万円の年金でやりくりする74歳の母
「本当に仕送り要らないの? 物価も上がっているし、月11万円じゃ生活がきついでしょう」
息子のシンジさん(46歳)は、地方の実家で一人暮らす母のトウコさん(74歳)をいつも気にかけていました。実家に帰省するたび、古びた平屋の寒さや、スーパーの特売品ばかりが並ぶ冷蔵庫を見ては、母の懐事情を心配していたのです。
しかし、トウコさんはいつも「工夫すればなんとでもなるから、シンジは自分の生活を大事にしなさい」と、笑って仕送りを断り続けていました。
シンジさんは「母は苦しいなかで健気に暮らしている」と思い込んでいましたが、その認識は少しずれていたことがのちに判明します。実は、トウコさんの家には、亡き夫とともに貯めた貯蓄と、トウコさんの親の相続によって譲り受けた資産、総額4,000万円が眠っていました。
「もし私が病気になったり、介護が必要になったりしても、このお金があればシンジに迷惑をかけずに済む」。トウコさんは、そう思っていました。相続が発生したのは、夫の分が10年前、親の分が25年前でしたが、トウコさんはこれらのお金に一切手を付けていません。然るべきタイミングが来たら自分の手で銀行口座に戻すか、生前贈与の手続きをしようと考え、それまでは誰にも言わずに隠し通してきたのです。
午後の「不穏な電話」
ある日の午後。一人でテレビを見ていたトウコさんの自宅で、電話が鳴りました。トウコさんが受話器を取ると、相手は「〇〇警察署の捜査一課のモノです」と名乗ります。「実は本日、高齢者宅を狙った強盗グループの主犯格を逮捕しました。その男が持っていた『襲撃予定リスト』のなかに、あなたのお名前があったのです」。
トウコさんの心臓は跳ね上がりました。男の言葉はさらに緊迫感を増していきます。「逮捕された犯人は『あの家は、寝室のクローゼットの奥に、衣装ケースに隠して大量の現金を貯め込んでいる』と供述しています。お母さん、心当たりがありますね?」。
その瞬間、トウコさんの全身から血の気が引きました。息子にすら、一度も話したことのないお金。なぜ、見ず知らずの犯罪者が「クローゼットの奥の衣装ケース」というピンポイントな隠し場所まで知っているのか――。
「いますぐ身辺を保護しなければ、別の仲間があなたの命と財産を狙いに向かいます。すぐにその現金をカバンにまとめてください。いまから当署の防犯係の者を自宅に向かわせ、警察の金庫で一時的に保管します」
パニックに陥ったトウコさんには、もう「電話の男を疑う」という思考の余地は残されていませんでした。震えながら4,000万円の札束を取り出し、旅行用カバンへと移したのです。