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介護の終わりと、想定外の「縛り」
「母が亡くなったときは、これでやっと自分の人生を生きられると思いました。でも、本当に大変だったのは、それからだったんです」
佐藤美由紀さん(52歳・仮名)。大学卒業後、アパレル会社に就職。しかし、40代半ばのときに父親が急逝。その後、母親の認知症が進行したため、仕事を辞めて地元に戻り、約7年間にわたり在宅介護を続けてきました。
母親は82歳で逝去。長年の介護生活から解放された佐藤さんは、実家を売却して東京に戻り、新しい生活を始める計画を立てていました。しかし、その計画はすぐに頓挫することになります。原因は、母親が遺した築60年の木造平屋建ての実家でした。
佐藤さんが不動産会社に売却の査定を依頼したところ、提示された査定額はほぼゼロでした。建物は老朽化が進んで資産価値がないばかりか、解体して更地にするには約300万円の費用がかかると告げられたのです。さらに、土地の境界線が曖昧で、隣人とのトラブルに発展するリスクがあることも判明しました。
問題は不動産の価値だけではありませんでした。佐藤さんには、実家を出て久しい兄が一人います。母親の葬儀が終わった直後、その兄から連絡が入りました。
「実家に住み続けるならそれでいい。だけど売って現金にするなら、法律通りに半分はもらうから。墓の管理もお前がやってくれ」
兄は自らの生活で手一杯であり、実家の維持管理費用や解体費用を折半する意思はないと主張しました。一方で、もし売却益が出るならばその権利は主張するという姿勢です。さらに、近所に住む叔母からも「先祖の土地を売るなんて。親戚が集まる場所がなくなる」と電話で責め立てられました。
総務省『令和5年(2023年)住宅・土地統計調査』によると、全国の空き家数は約900万戸に達し、総住宅数に占める割合は13.8%と過去最高を記録しています。なかでも、相続を契機に適切な管理がなされないまま放置される「その他の空き家」の増加が際立っています。佐藤さんの実家も、この統計が示す典型的な状況に陥っていました。
「家を売ることもできず、親戚からは責められ、私はあの古い家に一人で取り残されてしまいました」