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妻の葬儀で痛感した子どもたちとの「心理的な距離」
東京商工リサーチによる転勤に関するアンケート調査によると、転勤や配置転換、グループ会社への転籍の実績がある企業は36.2%。大企業に限ると75.6%にものぼります。一方で、転勤を理由にした退職が直近3年であったとする企業は30.1%。ワークライフバランスを重視する人が増えているなか、転勤を嫌う人は増加傾向にあります。
「今であれば、転勤を断ったり、転職をしたり。そういう選択もあったかもしれません。でも、そういう時代ではなかったので」
単身赴任が終わったのは、ちょうど、次男が大学を卒業したあと。ようやく、子育ても、また住宅ローンの返済も終わった50代後半。東京本社に戻ってきて、そのまま60歳定年を迎えます。これからは夫婦二人の時間をゆっくり過ごそうと考えていた矢先、ほどなくして妻は病気で急逝します。
厚生労働省『令和6年簡易生命表』によると、日本人の平均寿命は男性が81.09歳、女性が87.13歳。また60歳時点の平均余命は、男性が23.63年、女性が28.92年。定年を迎えて落ち着いたら、夫婦水入らず――そんな日々を誰もが思い描くのも無理はないでしょう。そのようなタイミングで、まさか、妻と永遠の別れを迎えるとは――。
さらにショックだったというのが、妻の葬儀の際の通夜振る舞いのとき。子どもたち含め親戚がみんな妻の思い出話に花を咲かせているなか、木村さんが思い出せるのは、結婚する前のことばかり。
「結婚する前は、一緒に撮った写真が結構あるんですよ。ただ、以降の写真に、私が写っているものはほとんどなくて。単身赴任をしてきた20年あまり、家族としての記録がないんです」
内閣府『高齢者の生活と意識に関する国際比較調査』によると、日本の高齢男性は諸外国に比べ、配偶者を失った後に「家族以外に相談相手や親しい友人がいない」と答える割合が非常に高いことが指摘されています。特に仕事中心の生活を送り、地域社会や家庭内での関係構築を後回しにしてきた単身赴任経験者は、配偶者の急逝によって一気に完全な孤立状態へ突き落とされるリスクを抱えています。
「もっと家族と過ごす時間を大切にすればよかった。それしかありません」
老後の生活設計において、貯蓄額や年金受給額といった「お金の準備」は不可欠な要素として語られます。しかし、「定年になれば、また当たり前に夫婦二人の生活が始まるだろう」という思い込みは、決して確実なものではありません。仕事のために今ある家族との時間を後回しにせず、日々のつながりを積み重ねていくことこそが、本当に必要な備えなのかもしれません。