かつて、サラリーマンにとって宿命だった転勤。ときに、家族ともに異動先にはいけず、「単身赴任」という選択をとるケースも珍しくありません。家族でありながら離れ離れ。また、そんな生活を終えたあとに訪れるのが、幸せとは限りません。ある男性のケースを通して、高齢期の男性が直面する突発的な孤立の課題についてみていきます。
「もっと家族と過ごす時間を大切にすればよかった…」〈退職金3,200万円〉〈貯蓄3,000万円〉63歳男性、単身赴任の日々を振り返り、後悔しか口にしない理由 (※写真はイメージです/PIXTA)

単身赴任生活の末、貯蓄3,000万円と引き換えに失った「家族との時間」

都内在住の木村高志さん(63歳・仮名)は、3年前に大手機械メーカーを定年退職しました。現在、手元には現役時代に蓄えた約3,000万円の貯蓄に加えて、3,200万円の退職金があります。「これだけ蓄えがあれば老後は安泰」と思いきや、木村さんの表情に活気はありません。

 

「お金があっても、使うことがないから」

 

現役時代、木村さんは転勤の連続でした。

 

「最初の転勤は、東京で家を買った直後でした。『家を買うと転勤辞令が下りる』というジンクスがありますが、まさにその通り」

 

このとき30代前半。それ以来20年超、関西や九州などを中心に異動を繰り返してきたといいます。

 

「妻とは同い年で30歳前に結婚しました。ほどなくして、家を買って、子どもも生まれてというタイミングだった。妻は長男と次男の子育てで、本当に大変だったと思います。でも、お義母さんの家が比較的近かったのが不幸中の幸いでした」

 

自宅に戻るのは1カ月に1度。金曜の夜に帰ってきて、日曜の夜に戻るというのがお決まりのパターンでした。特に大変だったのは、子どもたちが思春期のころと振り返ります。

 

「妻も年頃の男の子に手を焼いていたみたいです。本来なら父親がガツンと言うのでしょうが、普段、いない人間がいったところで……このときが一番、家族とどう接したらいいのかわかりませんでした」