社内公募や副業解禁、大規模なリスキリング投資など、個人のキャリアを支えるインフラは急速に整いつつあります。しかし現場では、「どうせ希望を出しても変わらない」という社員側の思い込みや、制度を単なる「自己責任」と突き放す会社との間で、深刻なギャップが生じているのが現状です。本記事では、難波猛氏の著書『ボスマネジメント 「成果を出している人」が上司と話していること』(アスコム)より、日本企業が進めるキャリアの主導権の転換を紐解いていきます。
「特に問題ありません」と無難にやり過ごす40代優等生の危機…“波風を立てない社員”ほど、会社から〈社外の選択肢〉を静かに検討される冷酷な現実 (※写真はイメージです/PIXTA)

どうせ言っても変わらない…会社が進める「キャリア自律」に消極的だった40代社員

制度そのものが急速に拡充され、キャリア自律の枠組みは、以前とは比べものにならないほど整ってきました。社員にとっては、キャリアをデザインするための扉が、次々と開き始めている状態です。そして、開かれた扉をどう使うか(または使わないか)は、あなた次第ということです。

 

日本企業は、キャリア自律に向けた仕組みを本気で整え、上司にも対話の重要性を訴求し始めています。一方で、追いついていないのが、キャリア自律の主人公である社員側のマインドです。

 

ある40代社員の例です。その会社には、キャリア自律を支援する仕組みがひと通りそろっていました。1on1も定期的に実施されており、形式上は「対話の場」が用意されていました。しかし本人は、1on1のたびに「特に問題ありません」「順調です」と答えるだけ。キャリアについて真剣に考えたこともなかったし、「どうせ言っても変わらないだろう」という思いもあったからです。

 

転機になったのは、キャリア研修のあとに行われた1on1でした。そこで彼は初めて、「自分のありたい姿」「この先どのような力を伸ばしたいか」をダメ元で共有しました。ただ、自分の状態を言葉にしただけです。

 

すると上司は、その話をきっかけに、業務の役割を一部調整し、社内の別プロジェクトへの関与を提案。今までと違うスキルは必要ですが、ワクワクする挑戦でした。すでにあった仕組みが、対話を通じて、初めて使えるものに変わったのです。

「思い込み」が自律を遠ざけている

色々な会社で40代、50代にキャリアの棚卸しの機会を提供していると、「自分のキャリアなんて考えずに突っ走ってきた」「今さらキャリアを語るなんて気恥ずかしい」「どうせ希望を言っても通らない」「今まで通り会社が何とかしてくれる」という思い込みが、社員に根強く残っていることを実感します。制度の扉は開かれているのに、心の扉が開かれていない。このギャップが、キャリア自律を遠ざけています。

 

会社側にも、課題はあります。キャリア自律=自己責任と受け取られかねないメッセージの出し方をしてしまうケースがあるからです。

 

本来は、社員のキャリア形成や能力開発を後押しするはずの制度が、「自分のキャリアは自分でなんとかしなさい」「会社は機会を用意したので、後は本人の責任」「会社に都合が良い範囲内で自律的に働いてほしい」「納得できないなら外を選べば」と受け取られていることがあります。これでは、自律どころか、孤立を生むばかりです。

 

キャリアは個人・組織・周囲の関係性の中で成立していきます。自律は自由奔放や好き勝手や放任ではありません。会社が環境や制度を整え、社員が主体的に選び、それを上司が対話を通じてすり合わせ、支援することによって初めてWin-Winに近づいていきます。

 

制度をうまく活かせるかどうかの鍵を握るのが、上司との対話です。制度は、キャリア自律の扉にすぎません。その扉を実際に開けるか、どの方向へ進むかは、結局のところ、上司との対話から始まると言ってよいでしょう。

 

 

難波 猛

マンパワーグループ株式会社 シニアコンサルタント

 

 

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